■プロフィール

トラトラ

Author:トラトラ
トラトラの日記です。
『のんびり獣道』というお話を掲載させて頂いております。
流す程度に読んでみて頂けると嬉しいです。

※注意事項です※
○コメントレスが非常に遅くなっております。 お急ぎの要件、レスが早く必要だという場合は、個別にレスが付けられる拍手コメントですとすぐにお返事が付けられますので、そちらのご利用をお願い致します。
○コメントにお話の予想やネタバレになりそうな内容を書き込まれる場合は、非公開でお願い致します。 ただ、拍手コメントは非公開にされますとレスが書けなくなりますのでご注意下さい。
○一つの記事に複数回コメントを書き込まれる場合は、三回までとさせて下さい。
◯楽しい場所にしたいですので、何かしら(アニメや漫画、社会情勢などなど)への批判やディスるといった内容、また自身の主義主張などのコメントへの記載はご遠慮下さい。
◯トラトラ屋創作物で、お話に出ていない設定を尋ねるのはご遠慮下さい。 二次創作等で必要という際には、御自身で自由にお考え頂いて構いませんですので。


以上、宜しくお願い致しますです~!!

■最新記事
■最新コメント
■最新トラックバック

■月別アーカイブ
■カテゴリ
■検索フォーム

■RSSリンクの表示
■リンク
■ブロとも申請フォーム
■QRコード

QRコード

シグナルレッド シグナルブルー
「お兄ちゃーん?」

ーリアクション無し

「お兄ちゃーん? 起きた?」

ーリアクション無し

少し困った表情をすると、新郷美咲は意を決して襖状の兄の寝室の戸をゴロゴロと開ける。
遮光カーテンの隙間から差し込む仄かな朝日の中、兄・新郷真樹はグッスリ寝込んでいる。
自警団勤務の兄は生活が不規則で、かつ睡眠時間があまり取れないことも多い。 その為、短時間で深く眠り疲労回復を図る習慣が身についてしまっている。 
昨晩も帰宅は22時過ぎ、その後も仕事部屋でしばらく起きていたようだった。 休日くらいはずっと寝かせてあげたかったが、出かける時に互いに声を掛けるのが、両親を亡くしている二人にとって暗黙のルールとなっていた。

しかし、「寝かせておいてあげたい」と「起こす為に意を決する」はじつは直結していない。 彼女が兄の寝室の戸を開けるのに「意を決する」理由は他の部分にあった。
案の定、今日も兄は下着を脱ぎ捨て、全裸で眠ってしまっていた。
男性の朝の生理現象に顔を赤らめつつ、美咲はそっと兄の下半身に毛布をかける。 
そのまま頭の方に近付くと、大きく立った兄の耳のフサフサの毛に指を入れ、もそもそと指を動かした。

「…んぁ…? 美咲…?」

兄の目が小さく開く。

この「耳フサ起床法」は、美咲がまだ幼稚園の頃に寝ている兄にふざけてやったことが始まりなのだが、今ではすっかり「一発で起き、かつ起こしているのが妹であると認識出来る起床法」として定着している。 どんなに深く眠っていても、妹の「起きて」サインには昔から敏感に反応する、兄バカ新郷君なのでした。

「ごめんね、お兄ちゃん。 私、そろそろ出かけるから。 寝ててもいいよ?」
「ん、い、いや…ちょっと待ってろ。 すぐ支度するから…」
「うん、じゃ玄関で待ってるね」
そう微笑んで言うと、美咲はそっと寝室を出て行った。

自分にかけられた毛布の下を確認すると、兄は今日も落ち込むのであった。
「はぁ…また美咲に小汚いもの見せてしまったなぁ…」
自分の隆々と天を衝くイチモツを、新郷は恨めしげに睨んだ。


「本当にごめんね、せっかく連休一緒になったのに…」
「ハハ、会社の慰安旅行なんて良かったじゃないか。 兄ちゃんのことは気にしないで、職場の仲間と楽しんでおいで」
「うん…。 じゃあ今度休み合ったら、その時は二人で温泉行こうね! 最近はお部屋に露天風呂付いてるところもあるみたいだし、お兄ちゃんの背中流してあげる! ね?」
「あ、あぁ。 まぁその、本当に兄ちゃんのことは気にしないでいいから」

少し頬が赤くなった。
子供の頃から兄にお風呂に入れてもらっていた美咲は、兄の裸に対して全く抵抗がないのだ。 勿論、大きくなったところなどは流石に照れるが。
しかし、兄にとっては立派に成長して「女性」になった妹の姿は、嬉しい半面やはり恥ずかしい。
最近、巷では「妹萌え」的な漫画(アニメ? 小説?)が流行っているらしく、職場で妹が実際にいる者たちは「そんなこと永遠にあり得ない」と口を揃えて言うワケだが、むしろ新郷はその言い分が理解できなかった。

目の前にいる妹はこんなにも可愛いのだから、理解できるはずもない。

「じゃ、そろそろ行ってくるけど、日用品の換えは洗面所下の引き出しに入ってるから」
「了解。」
「ごはんは材料いろいろ買っておいたから、適当に作って食べてね?」
「兄ちゃん、お前の手伝いはするけど、そんな料理得意じゃないんだがなぁ」
「あと、枕とかお布団の新しいのも私の部屋のクローゼットに入ってるから」
「新しい布団いつ必要になるんだ!? 兄ちゃん、おねしょを心配されてんの!?」
「じゃ、お兄ちゃん! 頑張ってね!!」
shingouotomari1.jpg
「…兄ちゃん、何頑張るんだ…? お前の中の兄ちゃんって留守番も危ういのか…?」

ギュッと握った手を離すと、美咲はタタタと廊下の突き当たりのエレベーターに駆け寄り、下ボタンを押した。
ポン!と音がしてエレベーターが到着すると、パッとこちらを振り向いて妹が手を振った。

「お話ししたら、今日勤務だけど早めに上がってくれるって言って下さってたからー!!」
「…は? な、何の話…」
「という訳で、夕方前には大河原さん遊びに来てくれるからー!!!」

「おぉおおおい!!! な、なんだソレ美咲ぃいいい!!!!?」

妹は、逃げるようにエレベーターに乗り込み、慰安旅行へと旅立ってしまった。 まさしくヒットアンドアウェイ!!!!!

お、大河原が…」
shingouotomari2.jpg
「うちに来る…?」


短編 「シグナルレッド シグナルブルー」


shingouotomari3.jpg
お…落ち着かねぇ~

大河原が来ると知ってからは心臓の音がやけにうるさく、二度寝も出来なかった。 何をしててもソワソワしてしまい、全く気が入らない。 時間の進みもイヤに遅く感じてしまう。

キンコーン
ビクッ!!!
ため息を漏らそうとした矢先にドアホンの音が鳴り響いた!! 
新郷宅のドアホンの音は2種類ある。 一つは部屋の前に付いたベルを押された時の音、もう一つが今鳴った「マンションの玄関から呼び出した音」である。
時計をチラリと見る。 14時30分。
さすがに違うよな…
ドアホンの受話器を取り、「はい」と小さく言うと

「…えと、新郷さんの御宅で合ってますか…?」

大河原だー!!!!!

「あ、あぁ。 えと、今自動ドア開けるから…!」
ピッと開閉ボタンを押すと、受話器の向こうの大河原が歓声をあげた!
「おぉー!! 凄ぇー!! 新郷いいトコ住んでんなー」
「…えぇと、入った先にエレベーター見えるか? 5階の、部屋番号は今押した番号そのままな」
「了解ー!!」

楽しそうな大河原の声がプツッと切れる。
少しだけ放心していると、ハッと我に返った!!
自分の身体を見る。 いかん!!! 超汗だく!!!! Tシャツびしょ濡れ!!!!!

また汗臭いとか言われる!!!!!

あたふたと右往左往してから、急いでシャワーを浴びる!!! 特に匂いがやばそうな頭、耳の裏、首筋、腋、おちんちんとお尻をワシャワシャと洗っていたところで

ピンポーン

大河原到着!!!!! ぎゃ!!!!!
「しーんご~!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ…!!」
とにかく急いで体を拭くと、バスタオルを腰に巻いて玄関を開ける!
「待たせてスマン…ん?」

shingouotomari4.jpg
「貴様…俺がホモとわかった上での狼藉か…?」


「何…? 新郷、今起きたところ?」
「あ、あぁ…まぁ、そんなところだ」
自室で着替え終わった新郷が、キッチンに入りながら答える。
実際の理由は恥ずかしくて言えやしない。 汗でビショビショになったシャツとジーンズは、洗濯かごの奥の奥へと押し込まれた。
新郷君、意外と道場で言われた一言が気になっているらしい。

二人分の飲み物を用意している間、店長は新郷宅をグルリと見回した。
「ほい」と新郷が烏龍茶の入ったコップを渡すと、
「お、サンキュ」
彼にしてはフランクな礼を言い、少し口に含んだ。 心地良く冷えていて、実に美味い。
「大河原、随分早く来たんだな? 夕方くらいって聞いてたぞ?」
「あ、そっか、悪い。 にろさんに話したら、さっさと行けーって追い出されちゃって」
新郷も烏龍茶を少しだけ口に含むと、ソファーの腕の部分に腰掛けた。
「へ~。 何か気ぃ遣わせちゃったなぁ」
「ハハ、いいって。 にしても新郷、凄いところに住んでんなー」
店長は改めて感嘆を漏らした。 

まぁマンションの入口辺りから感づいてはいたが、部屋の中がまたとんでもなかった。
玄関からリビングまでの距離が異常に長い! 左側は「MISAKI」とホテルのプライベートルームみたいなプレートが貼られた美咲ちゃんの部屋のみだったが、右側は新郷の寝室、風呂、トイレがズラリと並んでいた。
通されたリビングがまた横に長く、店長が恋焦がれてやまない最新システムキッチンがリビング入ってすぐの右側にドカンと付いている!
食事用のテーブルがキッチンのすぐ近くに置かれ、リビング左側にドデカいテレビがドーン! ソファーがズーン!!
で、リビングに繋がって、大きめの部屋が一つ。 ここが新郷の仕事部屋らしく、玄関から見ると壁の左側、美咲ちゃんの部屋に隣接している形になっている。 玄関廊下の左側にドアが一つしか無かった理由がこれなのだ。

「ここって値段、とんでもないんじゃねぇの…?」
「うーん、まぁ家なんて一生ものの買い物だし、やっぱりイイ所選びたいじゃないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え? 『かいもの』…?」
「ん?」
「ここ…賃貸じゃないの…?」
「あぁ、分譲だけど」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「新郷、ここ買ったの!!!!?」

「な、なんだよ…!? ビックリするなぁ…!」
「こっちのセリフだよ!!!? えー!? マンション買っちゃったの!!? 大丈夫なの!!?」
「何がだよ?」
「引越しとかだよ!!!」

「…あぁ、なるほど。 自警団って各地方自治体で独立運営してるから、桜見町自警団に入れば、一生桜見町自警団員なんだよ。 転勤とか無いしな。 って、お前も店長なんだから一緒だろ?」
「い、いや! でも近隣トラブルとかあったら…!!?」
「そういう時のためにここを選んだんじゃないか。 こんな高級マンションに住むような人達だぞ? 騒いだりするようなの、そうはいないだろ。 そもそも俺、自警団員だぞ? 下手したらしょっぴかれるじゃないか」
「いや…でも、結婚とか! そうだよ!! 結婚しちゃったら部屋数足りなくなっちゃうじゃん!!!」
「…お前は何をそんなに心配してるんだ…? 美咲が結婚してここに住みたければ俺が出て行けばいいし、美咲が結婚した相手と一軒家に住みたければ俺が一生ここに住めばいいじゃないか」
「そ、そっか…」
「ずっと同じ場所に住むなら、賃貸よりも分譲マンション買ってしまった方が最終的には得だろう?」
「そ、そうかな…うん、そうかも…?」
基本チキンハートのこてっちには、「マンションを買う」という行為が天の上の行動にしか思えないのであった。 貧乏性、南無。
「ところでさ、新郷」
「ん?」

「なんで結婚の話で『新郷が結婚する』ケースが想定に入ってないの?」

ギクッ!!!

「…いや、俺…多分、一生結婚しないと思うなぁ…」
「え!? 何でさ!!?」
「いや…俺、基本美咲以外の女性って苦手だし…何話していいか全然わからんしな。 まぁ、そもそも俺ってモテないし」
shingouotomari5.jpg

一瞬、店長はキョトンとしてしまった。
「またまたぁ! 新郷、絶対モテるじゃん!!」
「モテないよ」
「何でだよ? お前、メチャメチャ男前で格好いいじゃん」
「…嬉しいけど、それはお前の感覚がズレてるんだって。 世間一般から見れば、俺って強面だし取っ付きにくいんだって」
「高2の時、ラブレター貰ってたじゃん」
ガラステーブルに置いた烏龍茶を再び口に含んだ新郷は、思いっきりむせた。
「おま…そういうのよく覚えてるよなぁ…!?」
「ほら、やっぱモテるじゃん」
「後にも先にもあれ一回きりだよ。 あれは相手が特別だったんだって」
「相手って誰?」
「…誰にも言うなよ?」
「言う相手がいないじゃんか」
「う…そ、そうか。 スマン…。」
「で、誰?」
意外とこういう話題が好きな虎鉄君。 尻尾フリフリ中。

「…2組の羽川」
「マジで!!? おま、学年順位いっつも5位以内で運動も出来る才女だったじゃん!!! 可愛かったし、男子で人気めちゃ高かったじゃんか!!」
「…女子が可愛いって感覚、お前にもあるんだ?」
ホモなめてんのか!!? 性的対象にならんってだけで可愛い子は可愛いって感じるわ!!! 美咲ちゃんだって可愛いよ!!!」
「だろ~? そこは揺るがないだろうけどさ~」

「…。 で、付き合ったの?」
「いや、断らせてもらった」
「マジで!!? 何でさ!!?」
「いやだから、何話せばいいか全然わかんねぇし、ほら、美咲も小さかったし。 俺に甘えてくるのがもう可愛くってさー! こーんなちっちゃい手で俺の鼻とか耳とかペチペチ触ってきては天使のような笑顔をさぁ~」
「…でたよ。 お前ってマジで兄バカな…。 じゃあ大学は?」
「一浪して大学入って、でもすぐ辞めて自警団入っちゃったからな。 女性と知り合うヒマなしだよ」
「でも今の年齢で中佐って凄いんじゃないの?」
「いきなり飛んだな…。 ま、まぁ出世は早かった方かな…?」
「じゃあ絶対自警団内にお前のファンクラブあるよ」
「無ぇよ!!!」

だが、実際には自警団内にはしっかりと「新郷中佐ファンクラブ」が存在する! その8割が男性職員ではあるものの、構成員は階級が上のものから下のものまで千差万別!! しかもファンクラブ会長は、新郷中佐の直属の上司なのだ!!!!!
「何変なナレーション入れてんだよ大河原!!?」
「いやいや、絶対そんな感じだって! お前、絶対影でモテてるって!」
「お前も意外としつこいな…。 つうか今『8割男性』とか言ってただろ!? いいよ、ずっと独身で」

「…あれ? ちょっと待って…?」
「ん?」
「羽川にコクられた以前は…?」
「後にも先にもって言ったろ? 何にもないよ」
「で、今に至るんだよね…?」
「そうだな」
「…セックスは?」

ズキン!!!!!

「…無いよ」
「え? 何??」
「無ぇよ!!! 悪かったな童貞で!!!!!」
「マジで!!? え、でもじゃあキスくらいは…?」

新郷の顔が真っ赤になる!!

「それも無いの!!?」
「じゃあお前あるのかよ!!?」
「え? ほら、だって俺ホモだし」
「男相手であるのかよ!!?」

ズキン!!!!!

「だよな~、大河原ってそういうの奥手っぽいもんなー!」
新郷がゲラゲラ笑う!!! ヤロー!!!!!
「お前だって一緒だろ!!? 童貞オヤジ!!!!!」
「それ、自分の首も絞めてるよな」
挑戦的な表情を互いに浮かべ、鼻先をくっつけて睨み合うと、どちらともなくブッと吹き出し、二人同時に大笑いした。

「しかし、世の女性達はなにしてるんだよ。 こんなイイ物件ないのになー」
「物件ってお前」
「イイ男だし誠実だし、35で中佐の出世頭だし…あれ? そういえば新郷って35?」
「そりゃそうだろ。 同い年だし」
「いやほら、学年一緒でも早生まれとかあるじゃん? 3月31日生まれなら同じ学年だけど34だろ?」
「あ、そうか。 俺10月生まれだから35だぞ」
「何日?」
「10月13日」
「じゅ…!!」
shingouotomari6.jpg

「お前今とんでもないもの想像してなかった!!!?」
「え、何!!? 新郷エスパー!!!?」
「目が!!! 目が尋常ならざる光を発していたぞ!!!!?」
「新郷、もうホモになっちゃえばいいのに」

「お前、恐ろしいことをサラッと言うなよ…」

一瞬「そっちの方がモテるのかな」と思ってしまった自分が、新郷中佐はちょっと悔しかった(笑)


一緒に録画していた石蔵鉄志のドラマを見ていたら、アッと言う間に部屋が夕焼けの赤に染まった。
夕食をどうしようかということになって、ようやく新郷は美咲の意図を理解した。 なるほど、材料をいろいろ揃えたのは、俺というより大河原用なのだ。
最新システムキッチンにすっかりハイテンションな店長と並んで、一緒にカレーを作ることとした。 これなら作業の多くを手伝える。
最初は電気コンロに戸惑っていた店長も、すぐに加減を理解し、鼻歌交じりの上機嫌で大きめに切った鶏肉とゴロゴロ野菜を煮込んでいる。
大皿にサラダを盛ると、出来上がったカレーをたっぷりよそって二人向い合ってテーブルにつく。

「お!」
「美味っ!!」
二人揃って声を上げ、目を合わせて笑った。
「同じ種類のルゥ使ってるのに、美咲と味違うなー」
「やっぱり美咲ちゃんの味が一番か?」
二口目を頬張りながら、店長が楽しそうに訊く。
「うーん、どっちも美味いけど、美咲のはもっと甘い感じかな」
「じゃあバーモントの比率が多いんだろううな。 俺、こくまろ多めにしたし」

3種類入っていたカレーのルゥも、入れ方次第でこうも味わいが変わるのかと、当たり前のことながら新郷は少し驚いた。
結局炊いたご飯は二人で全て平らげてしまった。 店長は4杯、普段そんなに食べない新郷も3杯食べてしまった。 胃の部分が少しきつい。
「少しカレー余っちゃったな」
「あ、そのまま残しておいてくれ。 美咲にも食べさせたいし」
「あいよ~」
キッチンで水を汲んできた店長が、新郷の前にもコップを置いてくれた。
「お、サンキュー」
「新郷、すっかり口調が昔に戻ってるよな」
再び向かいの席に座った店長が、楽しそうに笑った。
「あぁ、そういや自警団に入ってからは話し方変わったなぁ」
「俺もにろさんに敬語叩き込まれたからなぁ」
「あ、でも今日は結構昔っぽいぞ?」
「あ、ごめん、嫌だったか?」
「いや、俺的には嬉しいかな。 ほら、ずっと思い描いてた大河原は高校の頃の延長上だったから。 なんか昔の大河原と仲良くなれたみたいで嬉しい」
そう言って、照れくさそうに頭を掻きながら新郷が言う。
「…じゃあ、もうちょい昔寄りになろうか?」
「え? 出来んのそんな事!?」
「まぁ、ほら、昔の俺も普通に素の俺でさ、今もキレると結構出てきちゃうんだよな」
「…二重人格か?」
「そこまでじゃねぇんだけど。 ま、ちょっと待ってな」

そう言うと、店長はバンダナを外し、両方のこめかみに人差し指を当てて、まるで頓智が得意なお坊さんのようにポクポクと考え出した。
すっと目を開くと
「…こんなもんでどうだ?」
shingouotomari7.jpg
「おぉー!! すっげー!!! 昔の大河原だ!!!! マジすげー!!!!!」
「…そこまで騒がれると、なんかちょっとハズイぞ…」
そっぽを向いて、少し頬を赤らめた。 ツン属性発動である(笑)


「大河原、明日は仕事か?」
ソファーに並んで座ってこてパパ映画のブルーレイを鑑賞し終えると、ふと新郷が尋ねた。

「いや? 明日は休みだ」
「じゃ、今日泊まってくか?」
「…! い、いいのか? 迷惑じゃねぇか?」
「全然。 っていうか、お前といるとなんか落ち着くんだよな」
そうふと漏らして、新郷は顔を真赤にした。
「いや! えと、美咲がもうお前が泊まれるようにいろいろ準備してくれてたみたいでさ! 出かけるときに日用品がどうとか何かと思ったんだが、お前のお泊りセットの話だったんだなーって」
そう、布団も枕も、ようはここまで考えて、妹は全て用意してくれていたのだ。 まぁ、「頑張って」は余計な気がするが…。

「そっか。 悪ぃな」
「じゃあ風呂どうする? 炊くか?」
「い、いや…流石にお前ん家の風呂は…ほら、美咲ちゃんが入ってる風呂でもあるわけだし。 照れんだよ」
「ふ~ん、そういうもんかねぇ? じゃあ銭湯とかは?」
「うーん…桜見町って虎獣人何人くらいいる?」
「…えと、町外れに1軒かな?」
「だよなぁ。 珍しいから結構ジロジロ見られんだよ。 温泉とか自体は足が伸ばせて好きなんだけどよ、どうにも目が気になって」

「あ! それならいい所知ってるぞ? 中心街から外れてるけど、仕事の帰りに一軒、スパを見つけた。 入ってみたが確か土曜日だったのにガラガラだったぞ? 今日平日だし、もっと空いてるかも。 どうだ? ウチからだと歩いて30分近くかかっちゃうけど」
「あ、俺、歩くのは全然平気。 へ~、じゃあ一緒に行ってみるか?」
「よし! 決まり!!」

洗面台の下を覗くと、歯ブラシなどと一緒に、案の定綺麗な手拭いとバスタオルが収納されていた。
シャンプーや石鹸は風呂場に設置されていたので、結局バスタオル1枚と手拭いを2枚持って、夜空の下をテクテク並んで歩いた。
二人とも歩行スピードは意外と早く、20分ちょっとで目的のスパに到着する。 駐車場もあるのだが、現在、黒いセダンが一台停まっているのみである。 ここの経営は大丈夫なのだろうかと、店長職の虎鉄君は我が事のように不安になる(笑)

玄関にある靴箱も、使用中は僅かに七つ。 男湯女湯を考えれば、風呂場にいるのは2,3人がせいぜいだろうか? これは確かにのんびりできそうだ。

一階はその下駄箱のみですぐに階段になり、二階が券売所と休憩所(客ゼロ)、さらに階段を登って三階が風呂の入口になっているという変わった構造になっていた。
「風呂場に降りる階段があるんだよ。 湯船とか洗い場が二階に配置されてるんだよな」
そう、新郷が教えてくれた。

と、「男」と書かれた暖簾(のれん)の横の小さな休憩所に、一つの人影が見えた。
ソファーに深く座り、黒のコートに黒の帽子をを目深に被っている為容姿は全くわからないのだが、虎鉄はその人物が誰なのかすぐにわかった。 その独特の雰囲気。 間違いない。

「鷹継さん?」
向こうは相当驚いたらしい、ビクっと動くと彼らしからぬ驚愕の表情を見せた。
「虎鉄様…! 新郷様まで…何故このような場所に…!?」

「…えと、新郷ここの自警団でここ住まいですから。 むしろ鷹継さんこそ驚きなんですけど?」
スッと立ち上がると、その巨体を近付けて鷹継はそっと囁いた。

「虎鉄様、ここは有名な『ハッテン場』なのですが…」

彼には珍しく、語尾を少し濁した。 無論、相手のリアクションを確認するためである。 
そして案の定、虎鉄は顎をこれ以上無いというくらいにあんぐりと開けた。
新郷は逆にキョトンとしている。
「…やはり御存知ありませんでしたか…」
「お、おい、大河原。 発展場って何だ? 発展、って何がだ…?」
「…僭越ながら新郷様、ここは私がご説明致します。 『ハッテン場』とは私共、同性愛者が使う言葉にございまして、簡単に申し上げますと、愛欲行動に勤しむ場にございます。」

虎鉄の顔が真っ赤になるのと対照的に、新郷の顔はグングン青くなっていく。

「こちらのシステムと致しましては、まず私が腰を下ろしておりましたあちらのソファーで入場客をチェック、そこで気が合いましたらそのままUターンでお持ち帰り。 ご同類かどうか分からない、もしくは体を見てみないとといった場合には、そのまま後ろについて入浴し、全てを見極めた上で声掛けするか否かを決定いたします。 二階では浴槽での行為は一切禁止、唯一他のノンケのお客様が居らっしゃらない時に限り、サウナでの行為のみ暗黙のルールで許諾されております。 また、三階露天風呂も浴槽内でなければ行為が可能となっておりまして、手軽に青姦気分が味わえると密かに人気なのでございます。」

人気の少ない場末のスパには、そんな需要が!!!?

完全放心状態の新郷に気付き、そっと虎鉄は鷹継に訊いてみる。
「今も何人かお客さん入ってます?」
「そうですね。 3人ほど入っておられると思いますよ?」
「全員、こっち側です?」
「いえ、皆さん一般のご利用客のようにございます。」
そう口元をほころばせながら、新郷にも聞こえるように説明してくれた。
これには新郷も我に返り、ホッと胸を撫で下ろしたようである。
と、

「おや! ちょっと失礼いたします。」
そう言うと、鷹継は階段口にタタタと走り寄った。
誰か客が一人上がってきたらしい、何やら声を掛けると、またこちらに走り寄ってきた。
「交渉成立にございます。」

早えぇなー!!!!!!!

まぁ、わからなくもない。 角が生えていないとはいえ、メチャメチャ珍しい「鬼種」であることは明白だし、図体でっかいし男臭い上に男前だし、声掛けされた方がむしろぶっちゃけ勝ち組だろう。
階段口でそっぽを向いて待っている男の元に戻ると、

shingouotomari8.jpg
「それでは、失礼いたします。」
そう言って、会釈してくれた。

再び放心状態の新郷君。
「…今の人、シェパードだったな」
「…何も言うな…」

虎鉄の妄想が妄想じゃなくなる日も、もしかしたら近いのかもしれない(笑)


二階の風呂場に降りると、客は鷹継が教えてくれたとおり三人、浴槽、洗い場、サウナにそれぞれ一人ずついた。
印象的だったのは、全員虎鉄よりも新郷の方に視線を長く向けたことだ。

「ほら、新郷やっぱりモテるじゃん」
「お前…このタイミングで言うなよ…」

ますます青くなる級友に、軽く笑ってそっと囁く。
「嘘だよ、大丈夫だ。 全員こっちじゃなさそうだ」
「…やっぱそういうのってわかるのか?」
「何となく、今回はわかるかな。 全員新郷の顔しか見てない。 ご同類なら身体やおちんちんは絶対見ると思うしな」
「ふ~ん、言われてみればまぁそんなもんか…?(つうか大河原ってこっちバージョンでも「おちんちん」呼称は変わらないのか)」

しかし、虎鉄も実は少し妙な気分だった。
新郷には言っていないが、先程のシェパードも、そして今この風呂に入っている三人も、何となく雰囲気的にナギを連想してしまうのだ。 
何だろう?
内心小首を傾げていると、さっさと全身洗い終わった新郷が、上の露天風呂に行こうと虎鉄を誘った。

思ったとおり、露天風呂には誰もいなかった。
二人ならんで湯船に浸かると、先程までの微妙な空気もどこへやら、フーっと心底心地良いため息を漏らして、一緒に全身を湯の中で伸ばした。
視線を上げると、湯気の向こうに星空が瞬く。 これは本当に気持ち良い。

しばらく二人とも何も言わず湯に浸かっていたが、ふと虎鉄は新郷の身体に目をやってしまう。
鍛え上げられた逞しい体。 硬そうな筋肉はまるで彫像のようだ。
均整の取れた身体と、股間部に揺れる、新郷の男性の象徴。
こんな時、級友相手でもやはりそういう部分に目が行ってしまう自分が情けなくて、虎鉄は頭を振るとジャブジャブと湯を顔にかけた。 そのまま小さく溜息をつくと、視線を再び夜空に戻す。

「大河原、俺の、触ってみるか…?」

ふと隣の級友の口から発せられた言葉が、一瞬虎鉄には理解できなかった。
「…は?」
「いや、お前、さっきの話からしてメチャメチャ奥手っぽいし。 俺ので良ければ触ってみるか?」
「おま…! 冗談でもそういう事言うなよ…」
「じゃあ、触んなくてもいいのか?」

ま、マジか…?
心臓の音が、目の前の新郷の顔と重なる。 相変わらずの男前な顔。
こいつのに…触る…?
理性と欲望がグルグルと回る。 それでも手は、少しずつ彼の象徴へと伸びてゆく。
湯に浸かっている所為とは明らかに違う汗が額を濡らす。 緊張でどうにかなってしまいそうな中、彼の掌の中に、そっと、級友の柔らかく、暖かな感触が伝わった。
そのまま少し掌の中にあるものを包みこむように指を動かすと、新郷の性器の大きさや形が感触として伝わってくる。
皮の剥けきった、男性として成長した、かつての同級生の男根…。

これは、これは…ひょっとして…
誘われているのだろうか…

そう思った瞬間!!!
ぎゅむー!!!
新郷がいきなり虎鉄の股間のモノを握った!!!

「ギャァアアアアアアアアス!!!!!」

バシャーっと湯を飛び散らせ、新郷から飛び退くと、新郷は腹を抱えて大笑いしていた。

「な…!!?」
「ハハハハ!!! お返しお返し!!!!」

一瞬、ポカンとする。 
が、ようやく大笑いしている彼の意図を理解した。

「…ヤロウ!!!」
再び湯に飛び込むと、新郷の身体をまさぐるようにくすぐった! 無論股間もニギニギしてやる!!
「漢の純情弄びやがってー!!!」
負けずに新郷も、大河原の腹を握ったりくすぐったり、同じく股間もニギニギする!!!
「阿呆!! お前がチラチラ人の股間を見てるからだろ!?」

湯船をジャブジャブと波立たせながら、二人でしばしじゃれ合った。
そっか、そういや高校生のノリってこんな感じだったかもな。

虎鉄は改めて、目の前にいる一人の男が、自分の友人になってくれたことを実感した

新たな客が露天風呂に入ってくると、バッと二人おとなしくし、静かに湯に浸かりながら、視線を交わしてクスッと笑った。
「新郷、マナー違反でしょっぴかれるぞ」
「そん時ぁお前も同罪だ」
大人しく入っている風でも、湯の下ではしばらくつつき合いの攻防が続いていた。


並んで歯を磨くと、新郷の寝室に通された。
「おぉ、シンプル!」
どうやらそこは本当に寝るだけのスペースらしく、畳まれた布団以外は小さな本棚があるだけであった。 洋服類は備え付けのクローゼットに入っているらしい。
本棚に入っているのが、全て大江戸捕物帳の類なのが何とも可笑しい。
「新郷の匂いがする」
「…く、クサイか…?」
焦って自分の身体をクンクン嗅ぐ級友に、虎鉄は笑った。
「いや、どっちかっていうと好きな匂いだ。 少し男臭いけど、優しい匂いだよ」
そう言われて、顔を赤くしながらも、心底ホッとしたようだ。

妹の部屋に入り、クローゼットを開ける。
「結構平気に美咲ちゃんの部屋に入っちゃうんだなー?」
「何でだ?」
「いや、世間一般の妹勢って、兄が部屋に入るの嫌がるんじゃねぇかと思って」
「あぁ、俺たち年が離れてるだろ? 美咲にとっては兄って言うのと同じくらい『育ての親』みたいな感情が強いんじゃないかなぁ?」

部屋に入ったりクローゼットを開けたりするのを嫌がられたことなど一度もない。 無論、兄の知らないところで嫌がっている可能性だってあるわけだが、そうならきっと兄ちゃん泣いちゃうだろうね(笑)
クローゼットの中には、美咲が言ったとおり、新品の布団と枕が用意してあった。 が、それを取り出そうとした時、ふと、以前大河原の部屋に泊まらせてもらった時のことを思い出した。

そういや大河原、一緒に寝たがったっけ

「…悪い、大河原。 美咲、枕しか用意してなかったみたいだ」
「そっか…。 どうする? 俺、居間のソファーで寝るか?」
「俺と同じ布団じゃイヤか?」
「…ベッドならともかく、布団だとさすがに狭くねぇかな?」
「詰めて寝ればなんとかなるだろ?」
「俺は別にいいけど…」
「じゃ、決まりな」

そう言うと枕だけを取り出し、新郷は布団が入ったクローゼットをそっと閉めた。

二人で体を寄せ合い、他愛も無い話をしているうちに、いつのまにか新郷が先に眠ってしまった。 
間近で寝息を立てている新郷。
彼が、自分といると落ち着くと言ってくれたことが本当だったのだと、嬉しさを噛み締めながら、虎鉄も眠りにつこうとしていた。
薄れていく意識の中で、虎鉄はそっと、新郷に声を掛けた。

「新郷…」


それが「夢」だと、何故か初めから気付いていた。

高校の屋上。
山から下りてくる風が、何とも心地よい。
フェンスに寄って町並みを眺めている、大柄な一人の男。
学ランを風になびかせていた彼は、すっとこちらを振り向いた。

「新郷…」


「友達になってくれて、ありがとうな」
shingouotomari9_20110224223239.jpg

どんなに望んでも、どんなに悔やんでも、もうこの時間は戻ってこない。
彼も笑えば、今と同じように、こんなにも優しく笑ってくれたんだとわかるのに

もう、高校時代の彼を微笑ませてあげることは、自分には出来ない


だが、だからこそ
俺は   今の大河原を幸せにしたい

大河原に   笑っていてもらいたい


なぁ、大河原

俺はこれからも、ずっとお前の友達だ
何があっても、俺はずっとお前の味方だ

だからもう
屋上で一人で飯なんて食うなよ

また一緒に

shingouotomari10.jpg

カレーでも食おう


おしまい。



という訳で、お久しぶりです~!!
ようやくお届け出来ました、新郷さん宅お泊り話。 最近、ワンパターンになっちゃってないかなぁ…? とか。

さて、1月に更新結構頑張ったものの、またしてもこの更新速度かつレスも超遅い!! これに関してちょびっとご報告(言い訳)。

色々と、同時進行で作業しております。
まずはこの「のんけも」ですね。

そして次。
夏コミ用の同人誌を考えてました。 で、ネーム完成してます。
名付けて!
「のんびり獣道番外編・鬼種特集(仮)」!!!
のんけもに出てくる鬼種の方々の漫画を描こうと思ってます。
内容は三人のオムニバス形式。
1:にろさんのダメダメ生活日記「にろさんの日常」
2:ずっとお待たせしながら、未だに描けていないじいちゃんとの情事をいっそ漫画化!「鷹継さんのマニアックライフ」
3:「鬼の始まり 虎の始まり」:これはわかる方はわかるかな? 設定資料集に出てきたネタで、グレイさんだけどグレイさんじゃないあの方と鷹人さんとのおデートのお話です。
表紙込みで44ページ予定。 これをまず完成させようと思います。

さらに!
まだまだ発表できる段階ではないのですが、一応ご理解のために書いておきます。
トラトラ、ゲーム制作のお勉強はじめました。
現在、簡単なプログラミングをお勉強中。 我が心の師匠・ガイさんやUGCPさんのようなスンゴイゲームは永遠に作れないでしょうけど、ビジュアルノベルみたいのは何とか作れそうな予感です。
まぁ無料音楽素材探して背景と立ち絵とイベント絵を用意するだけでえらいかかるんですが…(汗)
一応キャラデザとメカ設定ちょろっと、あとシナリオが半分くらい組みあがってます。 キャラデザは作業目処が立ったら載せようかなーと。 載せたのに完成できなかったら目も当てられませんでしょうし…(汗)
一応内容は「ストライクウイッチーズ」のオッサン版を予定しております。
タイトルはー

「獣(ビースト)ライクウイザーズ」

パンツで大空を駆け巡る、オッサン達の物語です。
設定はそれっぽくしながら、まったく別の設定にします。 あと、各キャラが本気出すとケモになります(笑)
選択肢によってエンディングが変わるというよりは、選択肢で各キャラの話が読める、アドベンチャーノベルみたいなのを目指してます。

そんな訳で、今後はまた月一更新になってしまうかもなのと、レスが相変わらずの遅さになってしまうのですが、どうぞご了承下さいませ~!!
ひぎい!!!!!
今まで通り、拍手コメントは何とか遅くとも翌日までにはレス書いていこうと思いますので、どうぞよろしくなのです~!!
通常コメントも、一件ごとにレス付けられるようにならんもんかなぁ…

うん、そろそろ仕事との両立がきつくなってまいりました…(笑)

のんけも | 22:50:30 | Trackback(0) | Comments(33)

FC2Ad