■プロフィール

トラトラ

Author:トラトラ
トラトラの日記です。
『のんびり獣道』というお話を掲載させて頂いております。
流す程度に読んでみて頂けると嬉しいです。

※注意事項です※
○コメントレスが非常に遅くなっております。 お急ぎの要件、レスが早く必要だという場合は、個別にレスが付けられる拍手コメントですとすぐにお返事が付けられますので、そちらのご利用をお願い致します。
○コメントにお話の予想やネタバレになりそうな内容を書き込まれる場合は、非公開でお願い致します。 ただ、拍手コメントは非公開にされますとレスが書けなくなりますのでご注意下さい。
○一つの記事に複数回コメントを書き込まれる場合は、三回までとさせて下さい。
◯楽しい場所にしたいですので、何かしら(アニメや漫画、社会情勢などなど)への批判やディスるといった内容、また自身の主義主張などのコメントへの記載はご遠慮下さい。
◯トラトラ屋創作物で、お話に出ていない設定を尋ねるのはご遠慮下さい。 二次創作等で必要という際には、御自身で自由にお考え頂いて構いませんですので。


以上、宜しくお願い致しますです~!!

■最新記事
■最新コメント
■最新トラックバック

■月別アーカイブ
■カテゴリ
■検索フォーム

■RSSリンクの表示
■リンク
■ブロとも申請フォーム
■QRコード

QRコード

源司編第二話「そのおもいのなをきみに」ー終
月イチ連載&レスも遅れまくりで申し訳ありませんです!
ではでは、早速ですが源司編第二話完結編、どぞ~!!



gensto2-21.jpg

「…えーと、つまり…」

gensto2-22.jpg

「…虎鉄が過去に戻りたがっている理由を探していると…?」

ひと通りの説明が終わると、鉄志は赤ん坊と化した息子に顔を赤らめながら源司を見上げ、そう尋ねた。

「そうです、突然お呼び立てしてしまい、申し訳ありません、お父上」
「虎鉄なら、義兄さんとの関係をやり直したがるんじゃないかと私は睨んだのですが」
「う~ん…」
「…? オヤジさん、何か気になるんで?」
「あ、いや…それで、私は何をすれば良いのですか?」
「虎鉄さんの説得を試みて欲しいのです。 過去になど戻る必要はない、と」
「ふむ…」

普通なら受け入れられるような話ではないのだが、目の前に赤ん坊の息子という揺るぎ様のない事実を付きつけられている以上、信じざるをえない。
鉄志はスッと目を閉じると、しばらく無言になった。 そうして静かに目を開けると、今まで自分達と話していたのとは明らかに違う雰囲気へと変わっていた。

「虎鉄…」
自分の頭にじゃれつく息子に、父は静かに語りかける。

「お前にはたくさん辛い思いをさせてしまった。 それを私は本当に後悔している。 だが、過去をやり直すことに意味など無いよ。 過去があるから今があるのだ。 今の全てを失っても構わない、それ程に今を憎んでいるならまだしも、お前には素敵な友達が沢山いるだろう? その全てを失ってはいけないよ。 いけないと、私は思う」
先程まで、父の髪にじゃれていた赤ん坊の息子は、黙ってその言葉を聞いていた。

これはいけたか…!!?
そう、全員の視線が集中した時、

ブブー

クイズ番組の不正解の時のような音が鳴り響いた。
どこから聞こえたのか全員がキョロキョロしていると、にろさんが鳥居を指さした。

「あ、なるほど…この鳥居、どうやら虎鉄さんの精神状態を判定して、それが正解だったかどうかを音で示してくれるようですな」
「…っつうことは、オヤジさんはハズレってことか…?」
「なんか、すみません…義兄さん…」

ショボーンとする義弟に、パパは優しくはははと笑った
「いや、私は少し違うんじゃないかと思っていたからね。 そうショックでもないよ」
「そうなんですか…?」
「虎鉄は、自分に何かあったからとか、そういう自分のために過去に戻りたがるとは思えないんだよ。 戻りたがるなら、それはきっと誰かのためなんじゃないかな? 例えば、そう…むしろ隼人君の事とかでさ」
「私の?」

そこで、にろさんも思いついた。
「虎鉄…俺の事故のこと、気にしてるのか…?」
キョトン顔の虎鉄を抱き上げ、問いかける。
虎鉄はそのまま、小首を傾げた。

「事故…?」
「おや、源司さんはご存じなかったのですか? 隼人君は十年程前交通事故に遭い、昨年までずっと意識を戻さず入院していたのです」
「交通事故…!? い、一体どこで…!?」
「あ、私が事故に遭ったのは隣の中央なんですよ。 トラトラ屋のオープン一ヶ月記念で、こいつに飯をおごってやろうと」
「入院先も同じ隣町だ。 オヤジが知らねぇのも無理ねぇよ」

……知らなかった…
なにやら長期入院されていたらしいことは聞いていたが、交通事故でずっと意識不明だったなんて…
オープンしてひと月程で、副店長になった前「順風堂」店長の二口さんの姿が見えなくなったのは気付いていた。
だが、なんとなく、店長さんには、虎鉄君には訊けなかった。 お忙しそうだったし、そもそも新たに店を開くに当たってアドバイザーとしていてくれただけで、他の店に異動されたのかも知れない。 もしくは喧嘩別れなんかだったら、傷に塩を塗るような質問にもなってしまう。
そうして、自分はその事には触れず、それまで通りに毎日を過ごした。
店長さんと話をして、オススメの本を買って読んで、少しずつ仲良くなって

その間、虎鉄君は…どんな気持ちだったんだろう…

あんなに仲が良かった二口さんが事故に遭って、入院して、ずっと意識が戻らなくて

僕は、何も知らない
相談してもらえないとか、そういうことじゃない

結局自分は、自分で壁を作っているのだ
ある一定以上は踏み込まないように、常に相手と一定の距離を保っている

話からすると、ナギ君はこの事を知っていた
彼と自分との決定的な違いは、多分そこなのだ

相手を想いやって  距離をおくか
相手を想いやって  一歩踏み込むか

まただ。
また胸の奥がチクチクする
一体なんなのだろう…? 自分で自分がよくわからない

ブブー

再び部屋に響いた不正解音にハッと我に返った。

ちょっと気を抜くとすぐ落ち込むなぁ、僕は!!!?
バチン!と両頬を叩く。 硬い皮膚に、手のほうが痛かった

「どしたよオヤジ!?」
「あ、はは…なんでもないなんでもない。 ふむ、二口さんのことが原因でもなかったですか…」
「オジキ、他に誰か思いつかねぇか?」
「ん~…」
「隼人君、新郷君なら何か知ってるんじゃないかな?」

パパの口からその名前が飛び出したことに、二人は少し驚いた。
「オヤジさん、新郷のこと知ってんのか?…っと、ですか…?」
「ん? あぁ、虎鉄の親友だろう? 正月の旅行でも二人は随分仲が良かったし、彼なら何か知っているかもしれん」

美咲ちゃん以上の核爆弾を投下して、パパの生首はポンっと消えた。
敬愛する義兄に頬を染めながら挨拶をしたにろさんも、スッと立ち上がる。
「二口さん?」
「私も店に戻ります。 今から行けば私が午後番で店を見られますし、従業員の皆も安心させたいですしね」
少し不安そうな目で、虎鉄を見る。
「それに、ここでこうしているよりも、店をしっかり守ったほうがコイツは喜びそうですしね」

そう言うと、虎鉄の寝室から一枚、カジュアルシャツを持ってきた。
「虎鉄が元に戻ったら、一枚借りたと伝えてください。 さすがにあの上着を着てはいけませんので」
シャツを羽織ると、少し窮屈そうだが普通に着られた。
アイツも胸周りはかなりデカイですからね、そう言いながら笑うと、二人に丁寧に頭を下げた。

「虎鉄のこと、宜しくお願いします」

絨毯に膝をついていた源司も、パッと立ち上がるとお辞儀を返す。
「全力を以て、当たらせて頂きます」
ナギは座ったままだったが、軽く左手を挙げた。
二人に笑顔を向けると、そうだ!とにろさんがポンと手を叩いた。
「ちょっとコイツに外の空気を吸わせてきます。 すぐ戻りますので、新郷君のほう、お願いできますか?」

なるほど、そういう息抜きは考えもしなかった。
二人とも了承すると、にろさんは一度部屋を出て行った。

「よしオヤジ、アレを呼び出せ」
ぶっちゃけ、にろさんの申し出はナギにとって好都合であった。
そして

gensto2-23.jpg
「ぃよぉ~、犬っころ。 お前、相手を落とすにはまず外堀を埋めるタイプだったようだなぁ…? えぇ?」

新郷君にとっては、迷惑この上ない申し出でもあった。


「大河原が何か悩んでた…ですか?」
ナギに凶悪なガンを飛ばされながらも、新郷は律儀にう~んと悩んだ。
と、そこへにろさんが戻り、ナギに赤ちゃん虎鉄を預け、店へと向かった。
居間に戻ったナギの腕の中にいるものを目にし、新郷はその小さな目をまん丸にした!

「え!? ちょ…そ、その子誰ですか!!? 大河原の弟!!!? うわー、めちゃめちゃ可愛いじゃないですか…!!! じ、自分にも見せて下さい~!!!!!」

どうやら新郷君、妹好きというか、子供大好き属性のようです。


gensto2-24.jpg

「う~ん…あれかなぁ? 自分に甘いものは好きかって訊いてきたのですが」
話がややこしくなりそうなので「親戚の赤ちゃんだ」と適当に言い繕うと、新郷はへ~と虎鉄をあやしながらそう答えてくれた。

「それはいつ?」
「一昨昨日(さきおととい)ですね。 で、特にどちらでもないかなと答えたらナイス!と」
「何がナイスなんだよ?」
「さぁ…? で、そんな中で一番貰って嬉しいお菓子はなにか?と」

なるほど、と源司とナギは目を合わせた。

「で、オメェはケーキと答えたわけか」
「あれ? ナギさん、よくわかりましたね? そうです」

どうやら今回の召喚は完全に外したらしい。
ホワイトデーのお返しの事で悩んではいたんだろうが、事件が起こった時には既にその問題は解決してしまっている。
虎鉄が幼児化したのは、ケーキを作った後なのだ。

「…他に何か心当たりはないかね? 虎鉄さんが悩んでいたこと」
「うーん、自分もそう頻繁に大河原と連絡取っている訳ではないですからね…。 大輔さんはどうです?」

「…だいすけ?」
源司とナギ、同時に首を傾げた。

「大河原のお兄さんの。 大輔さんとは毎日電話かメールで連絡取っているようですし、大河原が何か悩んでいたのなら真っ先に相談してそうですけど」
「!!! 大輔って、ダイチャンとか呼ばれてる牛か!!!!?」

もう少し赤ちゃん虎鉄とじゃれ合っていたかった新郷だったが、もうすぐ休憩時間が終わるということで召喚終了することにした。 
どうやら彼は今、師範の道場にいるらしい。 検索すれば源司も気付けたし、道場に電話すれば事足りたわけか…と少し申し訳なく思うも、新郷は赤ちゃんと遊べたことに大満足だったようだ。
新たなヒントをくれたことに感謝しつつ召喚をとくと、また新たに別の人物を召喚する。


gensto2-25.jpg
ぼふーん

もうもうとした煙から現れた牛頭は、何故か目の下に隈が出来ていた。
事態が把握できずキョロキョロしていると、二人と視線があった。

「うわ!! か、神様…!?…と殺し屋!!?

ドキーン!!!!!

「なな、何言い出しやがったコノ野郎!!?」
「あ、ゴメン、そういや前もこてっちゃんに思ったまま口にするなって怒られたっけ…って!! 何これ!!? ここどこ!!!?

慌てふためく大輔に、源司はとりあえず事情を説明する。
虎鉄の赤ちゃん化を説明すべきかどうかは悩んだが、彼は身内であること、なにやらおかしな勘の良さを持っているらしきことから、包み隠さず話すこととした。

「ほんとだ、よく見たらここ、こてっちゃんの部屋じゃん~! そっか、こてっちゃん、赤ちゃんになっちゃったのか…ちょっとホッとした」
「何がです?」
「いや、昨日の夜からこてっちゃんから何の連絡もなくって、こっちから連絡しても電話も出ないし…。 もうどうしたのか心配で、仕事休んじゃいまして…」

なるほど、目の下の隈はそういうことか。
虎鉄の兄の存在すら知らなかったことに再びネガが入りそうになった源司だったが、彼の優しさになんだか胸が熱くなってしまった。
ちなみにナギはというと、部屋の隅で黙って座っている。 どうやら彼の動物的勘が、このお兄ちゃんとはあまり話をしないほうがいいと告げているようだ。
まぁ大輔は大輔で、この狼獣人にちょっと苦手意識を持っているのだが。 現在彼の肉棒は、絶賛怒張中である(笑)

「っと、え~と、こてっちゃんの悩みだよね? それでこてっちゃん、元に戻るんですか?」
「えぇ、その悩みを解決出来れば、ですが。 何か心当たり、ありますか?」

う~んと唸り声を上げると、アレかな?と小さく漏らした。
「なんですか!?」
「ケーキです。 甘さを控えめにしたケーキを作ろうと思うんだけど、どんな材料がオススメかって。 俺、タイヤキ屋さんで働いてますし、砂糖の種類とかは詳しいので」

またケーキの話題になってしまった!!!
直前までケーキのことで色々と悩んでらっしゃったことはまぁ間違いあるまい。 今我々が知りたいのは、その後なんだがなぁ…

「あ、何? 遊んでほしいの?」
いつの間にか赤ちゃん虎鉄が、大輔にじゃれついていた。 結構人見知りがない赤ちゃんである。
それだけに、自分だけ嫌がられたことがかなり傷つく。
「あ! じゃあちょっと待っててね~」
そう言うと、大輔はいきなり無理矢理鳥居の中に頭を引っ込めた。
そうなのか、これって向こうで自由に出入りできるんだ? こういう所も勘で動く大輔ならではの行動だろう。
この怪人物に神様も驚いていると、いきなり絨毯の上にニョキッと巨大なキノコが生えた。

そう、二人とも思った。

誰が一瞬で理解できるだろう、赤ん坊をあやそうと、自分の怒張したイチモツをさらけ出すなどという行動原理を。

「おぉおおおおおい!!!? テメェ、ナニしてやがる!!?」

慌ててナギがその巨大キノコから赤ちゃん虎鉄を引き離すも、よく見ると虎鉄はなにやら興味津々であった。 ジタバタして、それを触ろうと目を輝かせている。
「…オヤジ、精神衛生上良くない…。 ご退場願え…」

源司も無言で手を合わせると、ポンっと煙が起きてキノコが消えた。
虎鉄の兄、大輔の凄まじさに、二人とも言葉がしばらく無かった。
「…お前、あんなグロテスクなもんに興味持つなよ…」
赤ちゃん虎鉄は、今もキョトンとしている。

「…俺のでも、興味もつのかな…」
ちょっと試しに、とチャックを下ろして野太いイチモツを出してみると、再び虎鉄は興味を示してジタバタしだした。
「うぉ! マジでこんなん興味あるのか!?」
赤ちゃんを床におろして、イチモツをぶらぶら振り子運動させてみる。
虎鉄はそれに飛びつこうと、後ろ足(?)で立ち上がろうとしてはトタンと尻餅を付いた。 その食いつき様が面白くて、ナギが腰を思いっきり前後に振りつつブランブランさせていると
「…ナギ君、精神衛生上良くないよ…」
「…ハッ!!」
冷たい視線に、珍しく猛反省した。

その後も二人で頭を悩ませるも、全くもってさっぱりわからない。
他に何か知っていそうな人物を考えてみるも、周りからすればそれを一番知っていそうなのは自分達なのだと気付いた。
そう、虎鉄と一番多くの時間を共有しているのは、他ならぬ自分達なのだ。

と、いきなり室内に軽快な電子メロディが鳴り出した。
何かと一瞬驚いたが、鳴っていたのはリビングの小さな棚の上に置かれた、虎鉄の携帯であった。
どうしようかと一瞬顔を見合わせたが、源司が出ることにした。
「…もしもし?」
「もしもし…? あ、あれ…?」
「! タン君かね?」
「源司さん…? な、何故店長さんの携帯に…!?」

師範からすれば、虎鉄の携帯を鳴らしたのは相当の勇気と覚悟だっただろう。 そこに別の者が出れば、流石の彼も動揺する。
「お! オッサンか? 何抜け駆けしようとしてんだよ」
「ぬぉっ!!? 何だ駄目狼!!? 何故貴様までが店長さんの携帯に…!!!?」
もはや電話の向こうは怒りの業火が渦巻いている! 小さく溜息をつくと
「オッサン、今からそっちに行くから茶道寺も呼んでおいてくれや。 真面目な話がある」

後半は、彼なりに真剣な思いを込めたつもりだ。
そしてそれを、師範は敏感に感じ取った。
「…くだらぬ話だったら、承知せんぞ」
そう短く言うと、電話を切った。

例の稽古時間とやらが終わったのなら源司の電話にかければ良いものを、とも思ったが、師範は家の黒電話しか持っていない。 リダイヤル機能など、あのジーコジーコダイヤルを回す電話に備わっているはずがない。
小さく息を吐くと、ナギは脱いでいたシャツをバサっと羽織った。
「んじゃ、ひとっ走り行ってくるわ」
「…直接こちらに来てもらった方が早いのではないか?」
「オッサンの性格なら、オジキと同じパターンになりかねねぇだろ? 向こうでまず事情を話して理解させたほうが、何か情報を得られる可能性が高い。 茶道寺もどうせ今日のことは分かってるだろうし、すぐに来られる準備はしてんだろ。 合流して話して、何かわかったら連絡する」
「そ、それなら私が赴いたほうが良い! 私が今の虎鉄さんと二人っきりになっても、出来ることなど何も無い…。 キミがこちらに残ったほうが…」
「阿呆、逆だ。 俺が残ったって、神側で何か出来ることが分かっても何も出来ねぇだろ? オヤジがコイツの近くにいてやるほうが良いんだよ」

赤ちゃん虎鉄の頭を撫でながらそう言い残すと、ナギは部屋を小走りに出て行った。


赤ちゃん虎鉄と二人っきり。

部屋の時計の針の音だけが、規則正しく響き渡る。
チラリと目が合うだけで、虎鉄はそそくさとソファーの陰に隠れてしまう。 顔を合わせないようにそちらに背を向けると、ソファーの陰からちょっとだけ顔を覗かせる。

いつまでたっても、この顔に慣れてもらえない…
刻々と過ぎていく時間の中、源司は何度もへこみそうになる頭を振りながら、この出来事の原因を考えた。

だが、どうしてもわからない。
どうしても、思いつかない。

自分が知っていることといえば、高校時代の話くらいである。
その時代をやりなおしたいのではないかとも思ったが、お父上の話を思い出す。

虎鉄は、自分のためには過去には戻りたがらない
戻りたがるなら、それは他の誰かのためだ

それは当たっていると思った。
父親ならではの観察眼だと思った。

ならば、高校時代も不正解だ。
試しにこの事に関して説得を試みたが、思ったとおり鳥居からは不正解音が鳴り響いた。

既に時間は夜の7時を間近に迎えている。
理論上、猶予が24時間というだけで、実際はもっと早くその瞬間が来てしまう可能性だってある。
彼のことを考えれば、今すぐにでも彼の時間を止めてしまうべきなのだ。

しかし、やはりそこに躊躇いが生まれる。
二人だけの約束を、破りたくない

嫌われたくない

だが自分には、事態を打開できる何一つも思い浮かばない。
結局自分は、虎鉄君の悩みを理解できる位置にいなかったのだ
自分で勝手に壁を作って、その位置に行くことを自ら放棄したのだ

「…虎鉄君…」
ソファーに背を向けたまま、源司はふたりきりの時だけの口調になった
「…僕は…どうしたらいい…? 僕は…キミに…」

「キミに…嫌われたくない…」

もう、タイムリミットだ…
瞳が静かに、赤く光る。
手の中に、光が集まり始める。

「でも…キミに忘れられるのは…もっとイヤだ…」

忘れられる
嫌われる

その二択は、あまりにも残酷すぎる
だが、そのどちらかしか選べない、愚かな自分が
情けなくて、涙が溢れた

ふと  間近に気配を感じた

gensto2-26.jpg

「……こ」

gensto2-27.jpg

「虎鉄君…」

赤ちゃん虎鉄は、キョトンとした顔でこちらを見ていた。
ひょっとして、自分の顔にやっと慣れてくれたのだろうか…?
いや、ついさっき逃げられたばかりだ、そんな急に慣れたりなど…

試しに顔を近付けると、向こうも鼻をクンクンさせながら顔を近付けてきた。
そして、ペロリと、源司の目元を舐めた。

涙を、拭ってくれたのだ

本当は怖いはずなのに、逃げたいはずなのに、
こんな状態でさえ、彼は自分を慰めてくれる

その事が嬉しくて、悲しくて、
目からはまた、涙が溢れた。

嫌われたくない…
忘れられたく…ない……

その時、懐から穏やかなクラシックのメロディが流れた。
虎鉄は驚いて、再びソファーに隠れてしまった。
鳴っていたのは、源司の携帯である。
着信名は「ナギ」、リダイヤルでかけてきたのだろう。
涙を拭うと、通話ボタンを押す。

「…もしもし、どうしたね…?」
「オヤジか!? 今そっちに向かってる!」
「? ナギ君…?」
「こいつら、面白いこと言ってるぜ?」
そう言うと、向こうで携帯を持つ者が代わる気配がした。
「源司さん!? 茶道寺です! 絶対おかしいっすよ!!」
「さ、茶道寺君…? おかしいって何が…」
「ケーキっすよ、ケーキ!!」

またケーキの話だ…。
何故皆そこに行き着きたがるのだろう…? その問題は既に解決した後…
「虎鉄さんがケーキを三つしか作らないなんて、ありえないっすよ!!」

……ありえない…?

「いや、私は最近まで用事があった訳だし、私の分だけ別に…」
「それがおかしいんですって! 虎鉄さん、絶対俺らのこと『仲良し4人組』と思ってるっすもん!!」

……?

再び電話が代わる気配。
「…タンです。 不本意ながら、私も同意見です。 店長さんなら、我々の誰か一人が別のプレゼントになってしまうのは、『不公平』だと思うのではないでしょうか…?」

…不公平…?

「…俺だ。 こいつらの話を聞いてて、俺も思った。 あん時はオヤジが側にいたから言い繕っちまったが、確かに俺も違和感を感じた。 そこで思い出したんだ」
「…思い出した?」
アイツにチョコをやった順番だよ。 こいつらの話を総合すると、オヤジが一番だな?」
「あ、あぁ…そうだったが…?」
「次が茶道寺、そん次がオッサン、でケツが俺。 そうだな?」
「……」
ケーキの並んだ順番だよ。 アイツってバカだからさ、馬鹿正直に『貰った順番で』ケーキ仕上げていったんじゃねぇか?」

…ケーキの並び…?
! まさか…

「とすると、だ。 ここでもう一個思い出した。 茶道寺のケーキの横…」

gensto2-12.jpg

「何か、変に途切れたクリームが落ちてなかったか…?」

まさか…
虎鉄君が過去に戻りたがった理由って…?

「もし、もしだぜ? 一個目に作ったオヤジ用のケーキが、失敗したとしたら…?

そう、自分は勝手に、解釈を変えていた
弟達はこう言った

ーこてっちは、時間を戻したかったー

だがそれを、僕は「過去に戻りたい」と解釈していた
それは殆ど同じに思えるが、そこには大きな違いがある

gensto2-28.jpg

自分が過去に行きたいんじゃない

gensto2-29.jpg

対象の物体の、時間を巻き戻したかっただけなのだ

その意思が、力が、自分に働いてしまったから、虎鉄君がこうなってしまっただけなのだ

「…虎鉄君…」
ケーキを取り出し、それを持ってソファーに隠れた虎鉄に歩み寄る。

虎鉄は、そのケーキを見たまま、動こうとしなかった
今までとは明らかに違うその反応に、源司は確信を持った

余程の強い願いじゃなければ、力なんて発動しない
こんな、たったこんな小さなことで

キミは悩んで  頭を抱えて

こんな   どうしようもない僕の為に…


「虎鉄君…ほら、見てご覧…」
その声に、虎鉄は小さく顔を上げる

「失敗なんかしてないんだよ…。 ほら、そのままだろう…?」
gensto2-30.jpg
「こんな嬉しい贈り物、無いよ…」


「…本当…?」

ハッと目を見開く。
虎鉄は、黙ってこちらを見ていた。

gensto2-31.jpg
「…良かった…」



全てのケーキが出来上がった
その出来栄えに満足するも、それがかえって一個目の失敗を悔やませた
突然出が悪くなったチョコペンに力を入れた瞬間、源司さんの目の部分にドバっと出てしまったチョコを恨めし気に見つめる
その部分だけ取っても変な跡が残るし、その跡の上から生クリームを塗りなおしても、この綺麗な面には絶対おかしなムラが出来る
もう一個新たにつくり直そうにも材料が足りない
そもそも源司さんの分だけつくり直すっていうのが失礼だ
源司さんならこんな小さなミスくらい全然気にしなさそうだけど、だからこそ失敗作など渡したくない
何の気遣いもなく、心から喜んでほしい
まずは冷そう、冷えればチョコもケーキの表面も固くなるから、この余計なチョコを果物ナイフで綺麗にカットしよう


………

あぁ~、もう!!! なんで源司さんの一個だけ失敗しちゃったんだよ~!!!!

gensto2-32.jpg

あの一個だけ、時間戻してぇ~~~!!!!!


「…す、すみません…何があったのかよくわからないんですけど、皆のホワイトデー用のケーキ…なんかカピカピになっちゃって…」
テーブルに乗った三つのケーキの乾きっぷりに、虎鉄の無事に安堵した二人もさすがにちょっとへこんだ。
失敗したはずの源司のケーキのみがしっかりと食べられる状態になっているという、なんとも皮肉な結果になってしまっていた訳だが、それを喜ぶ神様ではなかった!

「虎鉄さん虎鉄さん、実は今回、神システムに新たな機能が加わりまして」
「…はぁ」
「一番偉い神様の許可がないと使えない機能なのですが、私、一度だけ使えるご許可を頂いているのです。 使ってみても宜しいでしょうか?」
「…? え、えぇ…」

何が何やらよくわからず生返事をした虎鉄にニッコリ微笑むと、源司は目を赤く輝かせ、乾いた三つのケーキにていっ!と両手をかざした。
途端、ぼふん!!と煙が上がると、三つのケーキは出来たてのようなしっとり感を取り戻していた。

「うわぁ!!? な、何したんですか!!?」
「三つのケーキを『若返らせた』のです」
「わ、若返り…?」
源司は、ニッコリと笑った。
「えぇ、虎鉄さんのおかげで出来上がった機能なんですよ?」

よくわからず、虎鉄は赤ん坊の時のようなキョトン顔を見せた。


源司は、自室で布団に潜り込みながら、今日一日を思い出す。
自分の不甲斐なさを痛感しっぱなしな一日だったが、虎鉄が自分のことであんなにも悩んでくれたことがやはり嬉しかった。 皆で食べたケーキの味も、また格別だった。
本当に波乱万丈だったが、幸せな一日だったと思う。

だが同時に、なにやら感じた胸のチクチクも思い出す

初めはわからなかったあの感情、だが…
もしや、という不安があった

ピンポンパンポーン

突然、頭の中に、気が抜けるような軽い音が流れた。
一瞬なにかと思ったが、そう、2010年3月14日は日曜日。 その日の夜、深夜0時は、新たに設定された「通信簿タイム」なのだ。

どんな事を言われるのだろう?
自分はちゃんと、町の皆さんと交流が取れているだろうか?
いつもつるんでいる皆のことで、叱られたりしないだろうか?

虎鉄君のことは…どうなんだろうか…?
あの、自分に生まれた感情、あの「思い」は…?

期待と不安が入り交じる中、その声は空気を読む気配なく、呑気に流れた。
『あ~、あ~、ただいまマイクのテスト中~。 テステス、テステス』

流れてきたのは、自分の声である。
てっきり高位の神の誰かの声か、作られた音声が流れると思っていたので、これには意表を突かれた。

『あ~、ゴホン。 我が子孫、源司へ。 これより汝が御先祖様、樹大先生が通信簿を聞いて渡す』

……は?

『うん、キミは実によく出来ているな! 感心感心~! ただ、ちょっと考え方に固っ苦しい部分があるぞ? 無論他の神々からすればやわらか脳みそだが、もう少し、砕けても良いと私は思うなぁ』

通信簿を聞きつつも、頭は混乱しっぱなしであった。 自分の先祖というと…初代の神様…?
それが何故今、どうやってアナウンスを? ボイスサンプル??

『さて、源司よ。 キミにはちょっと特別な感情が芽生えているな?』

きた…
やはり、あれは…

嫉妬…したのですね…。 僕は…ナギ君に…皆に…」

『コラコラ、アナウンス中にこちらの話の腰を折ってはいかんぞ、源司?』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は!!?

「な…!? リ、リアルタイム通信…!!?」
『まったく。 まぁ、良いだろう。 源司よ、少し違うぞ? その想いはな』


『その想いの名は、「やきもち」というのだ』


………やきもち……?

『そんな深刻なことじゃあない。 誰かを好きになれば、誰でも覚える想いだ。 幼稚園児だって感じるものだぞ? まだまだそっち方面はおこちゃまレベルということだ』


嫉妬

やきもち


多分それは、同じものなのだと思う
だが、その言い方だけで、それは随分と違うように思えた

そうか、僕は
やきもちを焼いたのか…

そう頭で反芻するだけで、口元がほころんだ

『そうそう、よく出来ているお利口な子孫に、御先祖様から粋なプレゼントをひとつやろう。 私は今、最高神としてこの世界に存在している』

え…? え、えぇええええええええええええ!!!!?

『つまりだ、お前と虎鉄君は同じ、最高神の血族となるわけだな。 こんな共通点は他にはありえんぞ~? ブフ~!!!
その声は、満足気に吹き出した。

…僕と虎鉄君が同じ…最高神の血族…?
ただ、同じ「神の血族」じゃない…特別な、「最高神の血族」…
その言葉は静かに心に染み渡ると、なんとも言えない幸せな気持ちを沸き立たせた

そして御先祖様は静かに、優しく語りかける。

『源司よ、私はお前を誇りに思う。 他の神々が傲慢への一途を辿る中、お前は優しく、穏やかで、町を愛し、人々を愛し、そして、恋をした』

……え…?

『その恋は、お前の感情をきっともっと豊かにし、お前をもっと素敵な神へと変えてくれるだろう。 人はな、誰かを好きになって初めて、今まで知らなかった多くのことを知るのだ。 嫌なこともあるだろう、自己嫌悪など日常茶飯事かも知れない。 だが、それでも、恋をしてよかったと、きっといつか思えるようになる』

恋…? 僕が…?

『まぁ安心したまえ、お前の恋は結構イレギュラーの類だ。 どこまで進んでも子孫なぞ作れんし、とりあえずはハメを外して恋してみなさい。 虎鉄君も、先祖と同じで多分奥手だ、お前からリードしてやるのだぞ?』

僕が…虎鉄君に……恋…?

『お前のその恋が、素敵な結果にならんことを、切に願うよ。 それでは私からの通信簿はこれで終わりだ』

「ちょっ…ま、待ってくださ…!」

『我が子孫、心優しき源司へ。 原種、樹より』


声が消えても、源司は暫く呆然としていた。
そして、言われた言葉を思い返すと、頬が、胸が、

少しずつ暖かくなっていくのを感じた


自分はただ、虎鉄君が「好き」なんだと思っていた
それはただの「ライク」の延長上で、他の町民や、いつものメンバーよりも
ただ少しだけ、度合いが違うだけのものだと思っていた

「そうか、これが…恋なんだ…。 僕は…僕は、虎鉄君に…」

gensto2-33.jpg

「虎鉄君に、恋したんだ…」



それは口にするだけで、心を暖かくしてくれる言葉


それは   神様が初めて手にした


魔法の言葉でした



おしまい。




はい! という訳で、源司編第二話完結編でした~!
今回の「こてっち若返りの謎」は、結構あっさり皆さんに予想されてしまって、結構ショボンヌでした(笑) もっと作りを上手くせねばいかんなーと痛感いたしましたです。
で、実はこのお話、エピローグがあります。 かなり短いお話ですが、また来月にでも載せたいと思ってます。
これについても、すでに予想されちゃってましたが…ショボンヌw

みんな!! 結構自信がある予想は、非公開にしておくんなましよー!!!(涙)

さてさて、話題は変わりましてお知らせです~!!
夏コミ同人誌新刊、原稿完成いたしました!!!
表紙はこんな感じです~。

kisyutoku1.jpg

タイトル:のんびり獣道番外編・鬼種特集

一話目。
kisyutoku2.jpg
にろさんの赤裸々かつ自堕落な日常を描いた問題作、「にろさんの日常」

二話目。
kisyutoku3.jpg
石動さんとじいちゃんの性生活の真実が今明らかに!? 「鷹継さんのマニアック・ライフ」

三話目。
kisyutoku4.jpg
全ての始まりとなる二人の、あるちょっとした一日、「鬼の始まり 虎の始まり」

と、三話構成、表紙込みで48ページとなりましたです~!!
コミケ販売予定などが決まりましたら、またお知らせいたしますです!!!
お値段は…どうしようかなぁ…700円とかじゃ高すぎるのかなぁ…やっぱり600円くらいが良いのかなぁ…

さてさて、原稿も完成しましたので、今はゲームシナリオを執筆中でございます~!!
二日目まで完成。 どれくらいの期間のお話かはまだ内緒ですw
そんな訳で、まだまだゆっくり更新になってしまいますが、どうぞご了承くださいね。

あ、一個追伸~。

6月4日、池袋にて開催されます「野郎フェス」にて、「のんびり獣道 設定資料集」を委託して頂けることが決定いたしましたです!!
委託して頂けるのは、いつもお世話になっております、心の師匠・水樹凱さんのスペースでございます!!
ほんっとうにありがとうございます&いつもすみませんです~!!

スペースナンバーは
A-28

ですー!! 足を運べる方がいらっしゃいましたら、宜しくお願い致します~!!!


ではでは、また来月~!!!

のんけも | 00:11:59 | Trackback(0) | Comments(20)

FC2Ad