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トラトラ

Author:トラトラ
トラトラの日記です。
『のんびり獣道』というお話を掲載させて頂いております。
流す程度に読んでみて頂けると嬉しいです。

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○コメントにお話の予想やネタバレになりそうな内容を書き込まれる場合は、非公開でお願い致します。 ただ、拍手コメントは非公開にされますとレスが書けなくなりますのでご注意下さい。
○一つの記事に複数回コメントを書き込まれる場合は、三回までとさせて下さい。
◯楽しい場所にしたいですので、何かしら(アニメや漫画、社会情勢などなど)への批判やディスるといった内容、また自身の主義主張などのコメントへの記載はご遠慮下さい。
◯トラトラ屋創作物で、お話に出ていない設定を尋ねるのはご遠慮下さい。 二次創作等で必要という際には、御自身で自由にお考え頂いて構いませんですので。


以上、宜しくお願い致しますです~!!

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師範編第二話ー初撃
ー幸志朗さんー

その人は私をそう呼んでくれた

私はその人が


大好きだった



ホワイトデーからちょうど一週間。

中身をパンパンにしたエコバッグを持って住宅地をテクテクと歩いていた店長は、前から来る集団に度肝を抜かれた。

tansto2-1.jpg

怖ぇえええええええええ!!!!!

「(何あの集団!!? 絶対まともな職じゃない方々だよ!!)」
因縁つけられたりはゴメンなので、視線を合わせない様うつむき気味で道の端を歩いて行く。

特に何事も無くすれ違い、ホッと胸を撫で下ろしたところで、
店長は、決して見過ごすことの出来ないものをその集団の後ろに見つけてしまった。

「…新郷?」

そう、彼ら4人の後ろに、顔面を酷く腫らした新郷がついて歩いていたのだ。

いや、正確に言えば「歩かされている」だろう。

その姿を脳が理解した瞬間、大河原虎鉄の中の凶暴なケモノが目を醒まし始める。
首筋にチリチリとした焼けるような感覚を覚えながら、虎鉄はその集団に近付く。
先程までのビビリな彼など、もうどこにもいなかった。

「…おい…貴様ら…」

地獄の奥底から響くような声に驚いた新郷中佐が、顔を上げる。
「あ……お、大河原…?」

こちらに気付いた瞬間、彼はバツが悪そうに再び俯いてしまう。
当然だ。 自警団に所属する彼にとって、今の状況は屈辱以外の何物でもないだろう。

そのことが、この上なく虎鉄を怒り滾(たぎ)らせた。

相手は4人、それをどの順番で片付けるのが最も早く効率的か、頭で考えるその一瞬に、
4人は素早く虎鉄と新郷の間に割って入り、横一列に並んで大きな壁を作り出した。

まるで自分達の餌を渡すまいとするようなその行動が、ますます虎鉄を怒らせた。
既にリミッター解除寸前の虎鉄に、だが彼らは予想外の行動を取った。

「おはようございます!!!! 大河原さん!!!!!」

ご近所に轟き渡るような大声と共に、4人が一斉に店長に対してビシッと敬礼したのだ。
これには店長、完全に意表を突かれ、すっかり戦闘態勢を解除させられてしまった。

「…こら、お前ら。 こんな住宅地で大声出すんじゃない…」
新郷中佐の一声に、彼らは綺麗に回れ左をすると、再び一斉に敬礼をする。

「申し訳ありません!!!! 隊長!!!!!」

なんか、ゲームかアニメみたいにピッタリ揃ってるなぁ…
店長はこの集団に、ただただ唖然とさせられるばかりであった。


「…あぁ、この4人は全員、俺の隊の隊員だ」
ひと通り落ち着くと、新郷がそう教えてくれた。

なるほど、ただならぬ雰囲気とは思っていたが、自警団員だったのか…。
しかも新郷の部下ってことは、『対獣寄り』特殊部隊じゃないだろうか…? 確かそんな部隊に所属していると新郷が以前教えてくれたし、それなら彼らの怖さも頷ける。
「獣寄り」は通常の獣人よりも遥かに身体スペックが高い。 その犯罪者ともなれば、かなりの凶悪犯罪者になる筈だ。 そんな相手に立ち向かうのだ、これくらいの気迫の持ち主達でなければやっていけないのだろう。

ぶち切れなくて本当によかった…。
そのまま行けば文字通り「獣寄り犯罪者」として処理されてしまうところだった…(ひえ~)

…にしても、何故そんな彼らが自分ごとき一般ピープルをキラキラした目で見ているんだろう…?
尋常ならざる「尊敬の眼差し」を感じるんだけど…?

「じゃあ大河原、一人ずつ紹介させてくれ」
「あ…う、うん」
tansto2-2.jpg
「左から、大河原から向かって右な、雄真(ゆうま)=バークレイ大尉」
「はじめまして!!! 大河原さん!!!!!」

「佐々山 辰巳(ささやま たつみ)大尉」
「お噂はかねがね、隊長より聞かされております!!!!!」

「深山 宗次郎(みやま そうじろう)大尉」
「お会いできて、光栄です!!!!!」

「武井 一樹(たけい かずき)大尉」
「以後、どうぞお見知りおきを!!!!!」

「以上だ」

「宜しくお願いします!!!!!」

ビシッ!!!!!
4人一斉に、綺麗に敬礼!!!!!

事前に打ち合わせでもしてたのキミら!!!?
綺麗に台詞割りが出来上がっていたけど!!!!?

「は、はぁ…どうも……」
頭を掻きながらなんとかそれだけ言うと、バークレイ君がバッと手を挙げた。
「バークレイ」
「は!」

何!!? ここ、いきなり青空小学校でも開設したの!!!?

「実は自分、先程我らの正面より歩いて来られた大河原さんに、尋常ならざる恐怖を感じておりました!!!!!」

えぇええええええええええええ!!!!?

バッ!!!
「佐々山」
「は!」
「自分は、正直因縁でも付けられては困ると考え、若干視線を外しておりました!!!!!」

全部こっちの台詞だよ!!!!?

「いや…皆、冗談だよね…?」
バッ!!!
「深山」
「は!」
「自分、失禁寸前でありました!!!!!」

嘘だよ!!!!? え、マジで!!!!?

バッ!!!
「武井」
「は!」
「自分は、尻尾が丸まってしまうのを抑えるのに必死で、実は数滴いってしまいました!!!!!」

失禁しちゃってるよ!!!!!

マジかよ!!!? 俺ってそんな怖いの!!!!?

若干彼らの話に凹んでいると、
「じゃあ、少し大河原と話があるから、その先で待っててくれ」
新郷の言葉に「了解しました!!!!!」と再び大声を轟かせて、彼らは少し離れて行った。

「なかなか楽しいヤツらだろう? 仲良くしてやってくれ」
「あ…そ、そうね…」

今の会話を「楽しいヤツら」で済ませちゃうんだ…。 うん、やっぱり冗談か何かだよね…?
それにしても彼ら、何だか新郷には絶対服従っぽいけど、声のボリュームを下げろという命令だけは聞いてはくれないんだ…

「…っていうかお前、俺のこと何話して…じゃねぇや!!」
「は…?」
「その顔、どうしたんだよ!!!? 犯罪者にやられたのか!!?」
「まさか、それ程落ちぶれちゃいないよ。 これは師範だ」
「師範…って、幸志朗さん? そんなにぶん殴られたの?」
「いや、師範の突きも蹴りも、本来はもっと内部に来る痛みでそんなには腫れないんだが、今日は少し勝手が違ってな」
「…本気出された…?」
「…お前って、ちゃんとあの方の実力わかってるんだな。 うん、まぁ普段から手加減して下さってるがな、今回は違うと思う」
「どゆこと…?」
「最近は師範、ずっと俺とマンツーマンで組手して下さってたからな、俺もそれなりに見切りが出来るようになってた。 だが、今日は何度も攻撃を喰らってしまった」
「いつもより早いからじゃないの?」
「逆だ。 いつもより攻撃がワンテンポ遅かったんだ。 それで変に喰らってしまって、こんなに腫れてしまったんだよ」
「意図的じゃなくて? 野球のチェンジアップみたいな」
「ではないと思う。 なぁ、大河原、これからどこか行くのか?」

新郷は、店長の手の大きなエコバッグを見てそう訊いた。

「もし予定がないなら、少し師範の様子を見てきてくれないか? あの方も、お前にだけは心を許されているようだし…」
「うん、いいよ」
「本当か!?」
「っていうか、元々幸志朗さんの所に行く予定だったんだよね。 このバッグの中身は全部食材。 月頭からずっと忙しくされてるし、今日辺りどうかなーと思って」
「そうか…。 助かるよ」
「お前ってさ」
「ん…?」
「…イイヤツだよね」
「…お前が言うか?」

目を合わせ、そして二人で笑った。
手を振って別れると、4人は再び新郷の前に横一列に並んで歩き出した。
なるほど、あれは顔を腫らした新郷を隠すフォーメーションだったのか。 理由がわかると何だか可愛い。

しかし、新郷の話から、自分の中の不安がどうも的外れではなかったらしいことがわかった。
店長は少し小走りで、彼のいる道場を目指した。


「…おや? 店長さん…?」
道場に着き、住居側の玄関に回ろうとした店長は、不意にかけられたその声に驚いた。
道場側の玄関で、師範が伸びをしていたのだ。

普段どおりの彼。
ンーっと両腕を上に伸ばしている彼にホッと胸を撫で下ろしかけた時、それは起こった。

ドサッ

背筋を伸ばしていた師範は、そのまま地面に倒れてしまった。
まるで糸を切られた人形の様に、力無く、何の抵抗もなく。

駆け寄ることも出来ず、ただ呆然としてしまう自分。
軽い立ち眩みでもしたのではないかと頭の隅で考える中、だが彼は一向に起き上がろうとしない。

手に持っていたエコバッグが、地面に落ちた。

「……幸志朗さん…?」



額がヒンヤリと気持ちいい。
目の前にいたはずの店長さんは、いつの間にか天井に入れ替わっている。

見慣れた天井…そうだ、これは大部屋の天井だ

ようやく頭が回り始め、師範は己の現状を確認する。

大部屋にポツンと布団が敷かれ、そこに自分が横たわっている。
額には、気持ちよく冷やされた手ぬぐいが乗せられている。

起き上がろうとすると、少し身体が怠い。
朝から若干の不調を感じていたが、寝不足だろうくらいにしか考えていなかった。
少し寝てしまったようだが、まだ睡眠が足りていないのだろうか…?

軽く顔でも洗ってこようと立ち上がると、静かに襖が開いた。

「…! 幸志朗さん…!? 寝てなきゃ駄目ですよ!!」
「てて、店長さん!!!?」

店長は台所から持ってきたコップと水差しの乗ったお盆を畳に置くと、師範をグイグイと布団へと戻した。
「あ…あの…?」
「あ、そっか…。 幸志朗さん、お布団に入る前に着替えてもらってもいいですか?」
「着替え…?」

何が何だかよくわからないが、道着のまま布団に横になっていた自分は、確かに少し汗ばんでいた。
店長は部屋の奥に置かれた紙袋に手を突っ込むと、そこからタオルと着物を持ってきてくれた。
着物を一度畳に置くと、布団の横の氷水を張った風呂桶にタオルを浸して軽く絞る。

そうか、先程の手ぬぐいはあれで冷やされたのか…

そう考えながらも、どうにも今の状況が理解出来ない。
一体自分は何をやって、店長さんは何をしているんだろう…?

「服脱ぐの、お手伝いしましょうか…?」

ボーッとしていた自分に、店長さんが声をかけてきた。
「あ!! い、いえ…! 自分で脱げますから…!!」

とにかく慌てふためきながらも、道着をパパっと脱いでしまう。
こんな汗で湿った服、店長さんに触らせてたまるものか。

服を脱ぐと、店長さんがこちらの首筋をそっとタオルで拭ってくれた。
ヒヤッとした心地良さに、思わず肩が震えてしまう。

「あ、冷たすぎました…?」
「い、いえ…その……気持ち良くて」
「…良かった。 じゃ、ちょっと失礼しますね」
そう言うと、店長さんは首筋だけじゃなく、胸や脇、背中や腹まで拭いてくれる。

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「い、いいですよ…!! 自分で拭けますから…!!!」
「遠慮しないでください。 自分こういうの、にろさんの入院で手馴れてるんで」
「(叔父上殿の入院…?)」
「…やっぱり下着も濡れちゃってますね。 脱いでもらっていいですか…?」
「え!? は、はい…」

裸を見られることなど特に恥ずかしいと思ったことなどなかったのに、この状況は何故か妙に恥ずかしかった。

サポーターを脱ぐと、顕になった師範の男性器も、店長は特に気にせずタオルで拭いた。
汗が溜まりそうな男根と精巣の間や、精巣と大腿部の間も丁寧に拭く。
生殖器は熱が溜まりやすい場所なのは知っていたが、確かに拭いてもらうと何とも心地良かった。

が、その心地良さが仇となり、師範のイチモツは僅かに鎌首をもたげてしまう。
完全に包皮につつまれていた先端が、僅かに顔を覗かせてしまった。

「あ…!! す、すみません…」

顔を真赤にする師範に、店長はにっこり微笑んだ。
「いえ、こういうのは生理現象ですし、にろさんもこうなってくれることがあって、あぁ…生きていてくれてるんだなぁって実感できるんで、嬉しいんですよ…」

生きている…?

「あの…それって叔父上殿の入院のお話ですか…?」
「あ、えぇ…。 そっか…幸志朗さんにはお話ししてませんでしたもんね。 にろさん、車に轢かれて10年近く眠ったままだったんですよ…」

10年……!?

「今は元気でムキムキですけど、看病している間はずっと不安だったんです」
「…ご退院されたのは、私と店長さんが知り合う前ですか…?」
「いえ、去年の頭です。 豆撒きしたでしょう? あの少し前ですね」

………

…知らなかった
私は…店長さんがそんな不安を抱えていたことなど
気付けもしなかった……

「すみません…」
「え? 何がですか…?」
「私は…何もお役に立てなかった…。 それが申し訳なくて…」
「そんな事ないです。 幸志朗さんや、皆と仲良くなれたから、元気をもらってあそこまで頑張れたんです。 でなきゃ、もっと前に潰れてました」
「…店長さん」
「ただ……さっき幸志朗さんが倒れられたとき、その姿がにろさんと重なってしまって…凄く怖かったんです…」
「…そうでし…」

ん…?
「倒れた!!? 私、倒れたんですか…!!!?」
「……自覚、なかったんですか…?」

まさか…!! 寝不足ごときで倒れてしまうなんて…!!
ということは、ここまで店長さんに運ばれてきたということか…!!!?
なんというラッキ…じゃない!!!!! 何たる不覚!!! 何たる恥さらし!!!!
お姫様抱っことかされたのだったら、もう立ち直れぬかもしれん…!!!

「いえ…お姫様抱っこが一番運びやすかったですし…」

YES!!!!!

じゃ、ねぇえええええええええ!!!!!

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「もうダメです……恥ずかしくて店長さんの顔見れません…」
「い、いや…幸志朗さん…? むしろ色々と丸見えで、こっちが恥ずかしいんですけど…? とりあえず清拭も終わりましたし、パンツ履いてもらっていいですか…?」

そう言うと、店長は再び壁際の紙袋をゴソゴソしだした。
中から取り出したのは、縞々のトランクスである。

「…それは?」
「幸志朗さんが寝てらっしゃる間に着替えを用意したかったんですけど、お家の方を探す訳にもいかなかったので自分のを持ってきたんです。 サポーターも通気性はいいでしょうけど、トランクスの方がスースーしていいかとも思いましたし」
「……ということは…それは店長さんのトランクスなのですか……?」
「…やっぱりおイヤですよね…? じゃあ幸志朗さんの下着を…」
「それで構いません!!!!!」
「え、でも…」
「それで構いませぬ!!!!!」
「構いませぬ!!!?」
「通気性、重要です!!! 私、そういう下着持ちあわせておりませぬ!!!!!」
「わ、わかりました。 じゃ、すみませんけどコレ、履いてくださいますか?」

YEーS!!!!!

完全に舞い上がって「こてトランクス」を履くと、置いてある着物にも気が行った。
「では、そちらの着物も…?」
「あ、これは着物というか、療用着ですね。 にろさんが入院したとき冷静なつもりで色々買ったんですけど、全然サイズとか見ないで買ってて。 Lサイズなんで、幸志朗さんは丁度良く着られると思います。 いやぁ、こういうのは捨てないでおくものですねぇ」
「そ、そうでしたか」

てっきりあちらも店長さんの着ていらっしゃるものかとドキドキしたのだが、それでも嬉しいことにはかわりない。
袖を通すと、少しゆったりしているのが却って心地良かった。

しかも、ちょっと店長さんの香りがする気がする。
マズイなぁ…倒れたなんて不名誉なのに、思わず倒れた自分に感謝したくなってくる…

「じゃあ、お部屋移りましょうか? 本当は幸志朗さんのお部屋に運びたかったんですけど、勝手に入るのマズイと思いましたのでここに布団敷かせてもらったんですよね。 お部屋の方がリラックスできますでしょう?」
「そうで……」

!!!!!!!!!!

「いえ!!!! ここで結構です!!!!!」
「えー? でもここだとあまりゆっくり…」
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「ここが一番落ち着くんです!!! 本当なんです!!!!! ここがいいんです!!!!!」
「…そ、そうですか…?」

あっぶねぇえええええええええ!!!!!

そうだよ!!? 意識失ったのって、超危なかったんじゃないか!!!
店長さん、下手したら私の自室に私を運び入れるところだったんじゃないか!!!!

あの禁断の…店長さんグッズ満載の禁断のエデンへ!!!
全てが…全てが終わるところだった…!!!!!

「じゃあ、自分もここに泊まらせてもらっていいですか?」

その自然と出てきた店長の一言に、師範は物凄い違和感を覚えた。

「え…? 泊まる…? 明日もお休みなのですか…?」
「はい。 さっきにろさんに電話して、今日から4連休取りました。 明日、ちょっとだけ抜けてお店の皆に謝ってきます」
「…えっと……4連休? 何かなさるんですか…?」
「何言ってるんですか? 幸志朗さんの看病に決まってるじゃないですか」
「4日間もですか!!? い、いえ…ありがたいですが、こんな睡眠不足程度、一晩寝れば…」
「…幸志朗さん、過労ですよ?」
「は…?」
「過労。 練習しすぎ。 疲れすぎ。 意識失ってる間に、お医者さん呼んで診てもらったんですから。 で、その間に着替えとか取って来たんです。 結果は過労。 4日間、絶対安静です」
「4日間絶対安静!!!? い、いや…店長さん!? 6日後に試合があるのです…!! 今は最終調整の大事な時期なのです!!! そんなに休む訳には…」
「幸志朗さん? 聞こえませんでしたか?」
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「はい……?」

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「自分は今、4日間絶対安静って言ったんですよ…?」

ギャァアアアアアアアアアアアス!!!!!

「い、いえ…!! これは本当に大切な試合でして…!!!」
「新郷から聞きましたよ、自警団同士の対抗試合なんですよね?」

この国の自警団は、自警団という組織としてのルールはあるものの、基本的には各自治体による独立運営がなされている。
そして、それ故に意識が離れがちな各自警団の交流も兼ねて、このような対抗試合が組まれている。

自警団は武器を所持せず、武道で犯罪者を圧倒する組織だ。 その為、各自警団は武道の師範代を組織に招き入れている。
桜見町自警団が選んだのがタン幸志朗であり、師範代もこの試合に参加するのが習わしとなっている。

新郷の話では、今回の試合が桜見町と近江(おおみ)市の自警団とで行われることが決まり、試合会場のある近江市に師範と自警団長が向かったその日から、師範が人が変わったかのように練習を始めたということなのだ。

月初めの一週間は道場を閉め、どこかに修行に行っていたらしい。 それ以降はこの試合に参加する新郷含めた5名に徹底的に武道の型を教え込んでいるらしいのだ(新郷がまともに休めたのは、店長が泊まりに行ったあの日が最後らしい)。

そう、店長は実はずっと気になっていたのだ。
茶道寺の神官姿披露の時も、何だか少し機嫌が悪そうに見えた。 あれは修行から帰ってきた数日後だったらしい。
そして毎朝の挨拶もあまり交わせなくなり、先週のホワイトデーでは明らかにその表情に陰りが見えていた。 目の下に隈が出来、少しやつれたようにさえ見えた。
だからこそ、エコバッグに栄養がありそうな食材を詰め込んで、師範にお料理を作ってあげられないかと足を運ぼうとしたのだ。

「…それってそんなに大切な試合なんですか? お体を壊されてまで…?」
「………」
「やっぱり道場としての名誉とか、そういうことですか…?」
「……そんなもの、どうでもよいのです」

「……え…?」
「ただ…今回だけは……負けたくないのです」

ー全ては、あの日のミーティングがきっかけだ。
団長と近江市に向かわねばならぬ為、店長さんがせっかく企画して下さった温泉旅行を断らねばならなくなったことに唯でさえ頭に来ていたというのに、
そこで対面した近江の師範代が、とんでもないことを言い捨てよったのだ…!!!

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「いや、今回の試合相手に選ばれたこと、嬉しくて仕方がありませんな」
「…?」
「無敵と名高い桜見町自警団並びに、この世界で知らぬものはいない貴方をも叩きのめせる丁度良い機会に恵まれたわけですからな」
「…どういう意味かね?」
「いえね、昨年ちょいとばかし星見という町の神社祭に行く機会がありましてな、そこでとんでもないものを目にしたのですよ。 なんと、『羅刹』とまで渾名される貴方が、お化け屋敷なんていう訳のわからぬものに参加されてるではありませんか?」

…あぁ。 それが何だというのだ…?

「修行を怠り、あのような戯言に興じるなど正気の沙汰とは思えません! 腑抜けた者共に囲まれて、貴方も随分腑抜けられましたなぁ」
「…腑抜け?」
「そもそも何ですか? あの『トラトラ店長』だかいうのは? いつもヘラヘラしおってからに! あんな輩と交流を深めている貴方にも、その門下生にも、負ける気などせぬというものでしょう!?」

そう言うと、その熊男は下品な笑いを会議室に響かせたのだ。


「……腑抜け…? そう、言われたんですか…?」
「はい。 私のことは何と言われても構いません。 ですが……駄目狼はいいとして、源司さんや茶道寺君、それに…」
「……」
「…店長さんのことをそう表現されたのが、許せなかったのです」
「…幸志朗さん…」
「その場でヤツを蹴り殺しても何の意味もない。 試合で、門下生ともどもヤツを完膚なきまでに叩きのめさねば、ヤツの言葉を否定できたことにはならんのです!!」
「……それで無茶な練習を…?」

かつての自分は、勝ち負けなどどうでも良かった。
試合相手も、門下生も、自分にとっては全て同じ、

「技の実験台」に過ぎなかった。

道場の名誉も、自警団のメンツも、そんなものどうでもよかった。
ただ、己が強くあればそれで良かった。

そのツケが今、回ってきたのだ。
ろくに何も教えてこなかった我が門下生たち。 基本スペックが高い故今までの試合は勝ってこられたが、あれ程の自信を讃えた男の門下生には歯が立たぬかもしれぬ。
そうなれば、私…ひいては店長さんが腑抜けであったが為だと思われざるをえない。

それだけは、絶対に避けたかった

だが、私はまだ何も教えきれていない
あと6日、これは絶対に外せない!!
基本の型はそれなりに仕込めたつもりだ。 あとはそれぞれに合った技の伝授をしなければ…!!!

「…それでも、やっぱり駄目です」
「店長さん…!!!」
「嬉しいですけど、幸志朗さんが体を壊されては何にもならないでしょう? それなら自分が腑抜けと思われた方が何倍もマシです」
「しかし……」
「今はしっかり休んでください。 俺も、出来ることは全部しますから! だから、お願いします。 今は、体調を万全にすることだけを考えてください」

「……はい…」

そう言うしかなかった。
店長さんの、その真剣な眼差しを前に、
それ以外の言葉を発せられる口を、

私は持っていなかった



「そうか…お前が来てくれてよかったよ」
幸志朗さんの容態を話すと、新郷が残念がりながらもそう言ってくれた。

「でも中佐、どうします? 今日の練習」
佐々山君が、少し不安そうに声を出した。

そう、彼らは朝練の後勤務し、退勤後に再び道場を訪れたのだ。
彼ら自身も、この対抗試合には心の炎を燃やしているらしい。

「あのさ、新郷」
「ん?」
「俺もさ…力になろうって決めたんだ。 皆の練習相手、やらせてもらえないかな…?」

「本当ですか、大河原さん!!!?」
「うわー!! マジでスゲェ!!!!」
「あの伝説の喧嘩屋と勝負ができるなんて!!!!!」
「喧嘩屋じゃねぇって!! 鬼の総番長だろ!!!?」

ヤイヤイと4人が歓声を上げるのを、新郷が焦って押さえ込んだ。
「新郷…お前、4人に何の話をしたんだよ…?」
「い、いや! というか、あまり俺らを甘く見ないほうがいいぞ? 全員特殊部隊所属だし、お前もただじゃ済まないって…」
「わかってる。 それに、我流とやりあって、変なクセ付けたくないんだろ?」
「あぁ…まぁそれもあるかな…?」
「でもさ、試合ともなれば相手は自分とは違う流派なんだし、適当な攻撃する相手にいかに己の流派を貫いて倒せるかっていう練習にはなると思うんだよね」
「う、うむ…」

結局、何やかやと店長に押し切られる形で、彼の練習参加が決まってしまった。
まぁ、新郷自身も、今の彼と今の自分でどれくらいやりあえるのか興味があったのだから仕方がない。

「じゃ、大河原。 手加減とかは互いに無しだぞ? 却って危ないからな」
「大丈夫だって」
「本当か…? お前、昔と随分変わったし…」
「いやぁ…」

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「久々に頭に来ること言われてさぁ…。 皆を、幸志朗さんを腑抜けとかぬかした事、後悔させてやらないとな…」
「そ、そうか…? よくわからんが、じゃあ全員! 気合い入れろよ!!」
「はい!!!!!」
「じゃあ、試合順で、先鋒・バークレイから!」
「はい!!!」
名を呼ばれたドーベルマン型獣人、雄真=バークレイ大尉が挙手をし、道場中央に店長と向かい合う。

「では行くぞ? 試合…」
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「はじめ!!!」
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数分後、新郷君を含めた5人全員が、
生命の危機に瀕したことは、言うまでもない…

「こらー!! 俺みたいなド素人に倒されてどうするー!!!?」
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「み……見えね…(ガクッ)」

皆、知らないよね?
その人、神様倒しちゃってるから(笑)

師範編第二話

「そのおとこ きょうぼうにつき」


つづく



はい、という訳で師範編第二話のスタートです~!
設定資料集に先行して載っていた謎キャラが、一気に登場となりました。 大体想像ついてましたかね?w

さて、彼らの試合はどうなるのか? 師範の運命や如何に!?といった所なのですが、来月はコミケを挟むので更新微妙かもです…。

ではでは、コミケに来られる皆様は会場でお会いいたしましょう~!!

のんけも | 00:07:47 | Trackback(0) | Comments(37)
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