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トラトラ

Author:トラトラ
トラトラの日記です。
『のんびり獣道』というお話を掲載させて頂いております。
流す程度に読んでみて頂けると嬉しいです。

※注意事項です※
○コメントレスが非常に遅くなっております。 お急ぎの要件、レスが早く必要だという場合は、個別にレスが付けられる拍手コメントですとすぐにお返事が付けられますので、そちらのご利用をお願い致します。
○コメントにお話の予想やネタバレになりそうな内容を書き込まれる場合は、非公開でお願い致します。 ただ、拍手コメントは非公開にされますとレスが書けなくなりますのでご注意下さい。
○一つの記事に複数回コメントを書き込まれる場合は、三回までとさせて下さい。
◯楽しい場所にしたいですので、何かしら(アニメや漫画、社会情勢などなど)への批判やディスるといった内容、また自身の主義主張などのコメントへの記載はご遠慮下さい。
◯トラトラ屋創作物で、お話に出ていない設定を尋ねるのはご遠慮下さい。 二次創作等で必要という際には、御自身で自由にお考え頂いて構いませんですので。


以上、宜しくお願い致しますです~!!

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師範編第二話「そのおとこ きょうぼうにつき」-連撃
レス書けてなくてすみませんです!!!
な、なんとか間に合いましたです…ではでは、師範編第二話連撃(笑)どぞー!!



「はい、幸志朗さん、あ~ん」
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「あ~~~ん」

「どうです? 美味しいですか…?」
「はい…!!」
「…良かった」
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パァァアアアアアッ

あぁ…! なんて幸せなひと時なんだろう…!!
店長さんが作ってくださったすき焼きを、店長さんと二人っきりで、店長さんに食べさせてもらえるこの悦び…!

まさに三国一の果報者じゃあ~!!!!

病に伏してしまったことは本来誇れることではないが、やはり心のどこかで感謝してしまう。

あぁ、どうか…どうかこの素敵な時間が…夢なんかでは終わりませんように…!

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またやってもたー!!!!


もう…!! もう!!!!!
何で!!? 何で店長さんとの楽しい出来事はいっつも夢オチなのだ!!!?
滝でお尻を貫いてもらえたかと思えば夢! 一緒に海水浴に行ったかと思えば夢!!
温泉旅行なんて未だに夢のまた夢!!!!!(上手いこと言った)
たまには店長さんと二人っきりでイチャイチャ出来ても良いではないかうわぁあああああん!!!!!

「…どうかなさったんですか?」

突然かけられた声に驚いてそちらを向くと、店長さんが布団から上半身を起こし、こちらを心配そうに見ていた。
ハッと我に返り、クンクンと鼻を動かしてみると、微かに残るすき焼きの甘い香り…。

ゆ、夢じゃなかった~!!!

はぁ~っと息を吐いて安堵すると、店長さんが布団を出てこちらに来てくれた。

「…怖い夢でも見られましたか?」
「…は? あ、いえ、そういう訳では…」

そうか、大の大人が目を覚ました途端に大泣き、キョロキョロしてホッとする様なぞ、傍から見ればそんな風に思われても仕方が無いか…?

そんな私に、店長さんは優しく微笑みかける。

「…恥ずかしがらなくても平気ですよ? 病気の時はみんな不安になるものですから」
「い、いえ…本当にそういうのでは……」

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えぇえええええええええええええ!!!!?

「お休みなさい、幸志朗さん。 優しい夢が見られますように…」

まま、まさかこんなミラクルが起こりうるのか…!!?
未だ私は夢の中ではあるまいな…?

それにしても、あ…あたたかい……
正直、興奮しすぎて眠れなぞせんのではないかと思ったが、これは何とも心地良い…

店長さんの胸のフカフカした温もり…

いや、違う…

この方の「優しさ」が温かいのだ……


ずっと昔に…こんな温もりを私……は………



-幸志朗さん-

誰かに呼ばれたような気がして、静かに瞼を開ける。
大部屋の小さな明り取り窓から、暖かな日差しが入り込んでいた。

布団には、既に店長さんの姿はなかった。
だが、彼がいた辺りは今も暖かく、先ほどまで抱き合って寝ていたことが確認できる。

本当に夢のような出来事に、胸が熱くなる。

思わず、店長さんが寝ていたらしきぬくい場所に頬ずりしてしまう。
クンクンしてると、目が覚める直前のことを思い出す。

名前を呼ばれた気がしたのだが…やはりあれは店長さんが私を起こそうと声をかけてくださったのだろうか…?


何か…懐かしい夢をみた気がしたのだが……


「あ、幸志朗さん。 起きられましたか?」
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「ギャァアアアアアアアアアス!!!!!」

「…だ、大丈夫ですか? 急に声かけちゃってすみません…!」
「あ、い、いえ!!」

見られた!!?
店長さんの仄かな残り香にご満悦だった姿、見られた!!!?

「別に恥ずかしがらなくてもいいんですよ? 自分もよくやりますから」

店長さんもよくやる…!!?
誰かの匂いのクンカクンカを!!!?

「まだ眠たい時って、枕とか布団に顔こすりつけちゃいますよね~。 幸志朗さんはまだまだ安静なんですから、ずっと寝てらして構わないんですからね?」
「え!? あ、は…はい」

た…助かった~!!!

どうやらご自分の匂いをクンクンされていたとは思っていらっしゃらないらしい。

乱れた身なりを整え、大人しく仰向けに寝直す。

「で、幸志朗さん、お腹すいてません?」
「え…? あ、あぁ…そういえば少しすいてますかな」
「何か食べたいものありますか? お作りしますよ?」
「えぇ!!? ほ、本当ですか…!?」
「はい」

ニッコリ笑ったその優しい表情には、思わず甘えたくなる魔力のようなものがある気がした。

「あの…ではカレーうどんを…」
「意外なメニューが飛び出しましたね。 いいですよ~! じゃ、もう時間も時間ですし朝昼兼用ってことでたっぷり作ってきますね」

優しく微笑みながらそう言うと、店長さんは静かに襖を閉めて台所の方へと歩いていった。

…自分が言った食べたいメニューを、大好きな人が作ってきてくれる…
な、何だか新婚さんみたいだ…

そんな事を考えながら顔を真赤にしていると、ふと、店長の言葉におかしな部分を感じた。

「(ん…? 『時間も時間だし、朝昼兼用』…?)」

この部屋が皆の宴会場になってから付けられた、大きめの壁掛け時計に目をやる。

12時17分

ギャギャギャァアアアアアアアス!!!!?

昼回ってる!!? どれだけ熟睡していたのだ、私は!!!?
店長さんの温もりがあまりに気持ちが良くて、アホほど熟睡してしまったようだ!
おかげで、昨日まで感じていた体の不調はもう殆ど残っていない。
一瞬、昨晩の温もりを反芻してホンワカしかけたが、ブンブンと頭を振る!!

そうだ! 和んでいる場合じゃない!!!

今朝の練習はどうなったのだ!!?
皆、ちゃんと道場に来て、何らかの練習をしたのだろうか…!?

基本の型は既に教え込んでいる。 あとはそれぞれの仕上げに時間を注ぎたい!
無為な練習では、時間を潰してしまうどころか、せっかく教えたことまで駄目にしかねない!!

スッと静かに襖を開けると、耳を澄まして様子を伺う。
店長さんは台所にいるようだが、そこから出てきそうな気配はない。
静かに台所とは逆方向の玄関に向かい、そこに備え付けられた黒電話の受話器を取る。
パラパラと電話帳をめくり、目的の人物の番号をジーコジーコとダイヤルする。


『し、師範…!? どうなさったのですか!? 大河原が確か、4日は絶対安静と…』
「そのような事は今はよい! 新郷君、今朝は道場に来たのかね!?」
『は、はい…皆と朝錬をさせて頂きましたが…』
「今朝…あ、いや…昨晩もか、どのようなメニューをこなしているのかね!?」

その質問に、電話の向こうの新郷は明らかに一瞬言い淀んだ。

「何かね!? 何か言いづらいことでもしているのかね!!?」
台所に聞こえないよう、出来るだけ声を落としながらも言及すると、とうとう観念したのか新郷は口を割った。

『…大河原に練習相手になってもらっておりまして、皆それぞれ実戦組手を行っております』

な……!!?
その言葉に、師範は心底驚いた。
言葉が、しばらく出なかった。

「キ…キミらは一体何をやって…!!!」
そう怒鳴りかけた途端、玄関の戸の向こうに人影が映った。
その瞬間、師範の血の気は一気に引いた!
絶対安静と言われているのに、大部屋から出てきて電話なぞ、店長さんに知られたらまたあの冷たい視線を送られてしまう…!!! そしたらもう、失禁どころか脱糞にまで至りかねない…!!!!

新郷のリアクションも待たず、弾かれるように受話器を置くと、音を殺して大部屋に身を隠そうとする!
キンコーンとチャイムが鳴り、「は~い」と台所から店長さんが声を出す!!

ヤバイヤバイヤバイ見つかる見つかる見つかる~!!!!

大部屋に入り、音をさせずに襖を締め切るのと同時に、店長さんが部屋の前を通り過ぎた。

あ…あっぶね~!!!!!

そのまま布団に潜り込み、何事もなかったかのように身なりを整え仰向けに寝る。
耳を澄ますと、己の心臓の音と共に、来客がすぐに帰って行く音が聞こえた。
何かのセールスだったのだろうか? クッソー、焦らせおってからに~!!!

落ち着いてくると、先ほどの電話の内容が思い出された。

店長さんに相手をしてもらっている…?

その事が、師範を大きく動揺させた。
自分の門下生たちは、特に新郷や彼の部下の4人などは、しっかりとした良識を持っている人物たちだと思っていた。

だが、彼らはあののんびり屋さんでモッフリした店長さんを、こともあろうに己達の練習の実験台にしている。

その事が、信じられなかった。

そう、彼らがしていることは、
店長さん達と知り合う以前の自分の所業と、全く変わらぬものだったのだ。

その事実が、この上なくショックだった…


「…どうかなさったんですか? カレーうどん、美味しくなかったですか…?」

不安そうな店長さんの声にハッとする。
せっかく作った下さった料理に、こちらの箸は止まったままだ。 そう心配されるのは当たり前だろう。

自分が大好きな方が作ってくださった料理だ、美味しくない訳がない。

だが、どうしても美味しく食べようという気が起きない。
先ほどの話が気になってしようがない。
どう切り出そうか悩んだが、名案なぞ思い浮かびやしない。

困り果てつつ、それでも何かこの状況の言い訳をしようと視線を上げて彼を見ると、
師範はその違和感にようやく目が行った。

店長さん……何処も怪我してない…?

そう、己と共に時間を過ごしたがため、門下生たちの心までねじ曲げてしまったのではないかと落ち込んでいた師範だったが、当時の彼らのボロ雑巾っぷりとは違い、目の前の店長さんは全くもってピンピンしているのだ。

門下生たちを過大評価する気はないが、それでもそれなりの実力を彼ら5人は有しているはずだ。
その実験台にされて、この現状は一体どういうことだろう…?

「…あの、店長さん…?」
「はい…?」
「……新郷君達と、何かなさっているのですか…?」

どうしてその事に気付いたのか、言及されたらどう答えようなどという考えもすっ飛び、師範はその思った通りの疑問を投げかけた。
一瞬店長さんの動きが止まり、こちらも内心血の気が引いたが、それ以上に店長さんの顔面から血の気が引いた。

「あの…?」
「…すみません、幸志朗さん!!! 自分、なんだかやり過ぎちゃいました…!!!」

いきなり畳に土下座する店長に、師範はカレーうどんを落としそうになるくらいに驚いた!
「どど、どうなさったのですか…!?」
「実は自分…新郷や皆の練習相手にでもなれればと申し出たんですけど…その、ちょっと切れちゃってて…皆を逆に叩きのめしてしまいまして…!!」

……ナヌ…?

「本っっっっ当にごめんなさい!!! 大会前の調整期間に、こんな滅茶苦茶してしまって…!! 自分も随分頭冷えましたし、夜からはしっかり練習相手をこなしますから…!!!」

えーと…?

「まずは頭を上げて下さい…。 えと、ちょっと訊き返してもよろしいですか…?」
「はい…?」

頭を上げ、涙目店長が小首を傾げる。

「…叩きのめした…? えと…あの5人をですか…?」
「はい…」
「彼ら…弱かったですか…?」
「まさか! 皆すごく勘がいいですし、強くなると思いますよ!? 昨日は全く手が出せずにいたのに、今朝にはもう全員が何らかのアクションを起こせるようになってましたし、順応性が高いのかなぁ…? とにかく、皆弱いなんてことは全然ありませんです!!」

鼻息荒く、店長が捲くし立てる。
しかし、彼の台詞の中で師範が気になったのは、門下生たちへのフォローではなく、何気に言っているとんでもない単語であった。

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昨日は全く手が出せずにいた…?

「え…と、店長さん?」
「はい…?」
「今晩、練習を拝見させて頂いても宜しいですか…?」
「えぇ!? だ、駄目ですよ…!! 幸志朗さんは絶対安静で…」
「道場の隅で横になっております。 特に手出しなぞは致しません、見るだけです。 彼らに何かしらのアドバイスも出来るでしょうし、練習の方向性も指示できます。 それだけでも随分と違うと思うのです」
「はぁ…そ、そっか…。 確かに、幸志朗さんが見ていて下さったら、自分のやり過ぎも止めていただけますし…」
「あ、そこはお願いがあるのですが…」

「…はい…?」


「こんばんはー!!!!!」

ガラガラと道場の玄関が開くと、例の4人の威勢の良い声が響き渡った。
今朝はこの声にも目が覚めなかったのかと師範が少々驚く。

普段はこんな大声出さない筈なのだが、何やら随分と気合いが入っているらしい。
ただ、新郷ひとりは先程の電話で練習内容を話してしまったことが気になっているらしく、4人の大声をたしなめながら、少し焦り戸惑い気味である。
5人が道着に着替え道場に入った所で、全員が一瞬目を丸くした。

そこには布団が一式敷かれ、師範が横になってこちらを見ていたのだ。

頭をボリボリ掻きながら、店長が事情を説明する。
新郷は、てっきりこの練習自体が師範に止められ大目玉を食らうであろうと予想していたため、大きく胸を撫で下ろすと、密かに隠していたこの練習への情熱を燃やし始めた。
以前ならこの状況に緊張していたであろう4人も、すぐに承知するとウォーミングアップを始める。
まるで一分一秒が惜しいといった風で、その事にも師範は大いに驚いた。


「…あのさ、皆…身体は大丈夫…? 痛いところとか無い…?」

店長の不安そうな問い掛けに、4人はブンブンと頭を振る。
新郷もゴキゴキと肩を鳴らすと、店長に顔を近づけた。

「全員問題ない。 無論俺もだ。 だから大河原、手加減なんてしてくれるなよ?」

その台詞が聞こえたのか、4人とも頭をブンブンと縦に振った。
その動作が一々ピッタリと合っていて、店長は思わずプッと吹いてしまう。

「うん、わかってる。 幸志朗さんにも言われたしね、『絶対手加減などしないようお願いします』って」
「そうなのか? うん、じゃあすまないが今日も宜しく頼む」

「大河原さん!!! 宜しくお願いします!!!!!」

全員一斉のお辞儀に照れつつ、店長も準備に入った。
静かに目を閉じ、何かを考えている様子。 新郷以下4人も、そして師範も、静かにその様子を見つめる。

スッと目を開けると、その表情は新郷がよく知る、そして師範が全く知らない、いや、高校時代へのタイムスリップで一度だけ見たことのある、鋭いケモノの表情に変わっていた。

そう、ここで師範もようやく思い出したのだ。
あの日、不良共に囲まれる中で彼が一瞬見せた、凄まじい『覇気』を。

元来のんびり屋の彼だけに、この状態はあまり長くは維持できない。
すぐにいつもどおり先鋒の雄真=バークレイが配置につくと、あっと言う間に試合が開始される。

そして、師範が目を丸くするその数分で、全てが終わってしまった。
店長の想像を絶する『神速』、そして目の前で見せつけられた彼らとの実力の差に、ただただ師範は愕然とした。

「クッソー!!!!! またちょっとも当たらなかったー!!!!!」
「一樹はまだ捉えてる方だって!!! 俺なんて未だにガードもろくに出来てねぇ…!!!」
「辰巳は小回り利く分、ガードよりも躱す方が確率高いんじゃないか? 俺、もうそっち方面は諦めたけど…」
「宗次郎は重量級なんだから、そうへこむなって。 こん中じゃ大河原さんと一番相性悪いんだから。 つか、俺も人の心配できるレベルじゃねぇんだよなぁ…」

全員が畳にうずくまってピクピクしながら、それぞれに思い思いを口にしている。
そんな姿も、師範には驚きだった。

「よし、皆まだ回復中だな!? じゃあ大河原! 全快した俺からもう一本頼む!」
「あぁああ!!! 隊長、ズルイですよ!? 先鋒は俺なのに~!!!」
「くっそー!!! マジで隊長、回復早ぇえ~!!!!」

そう、叩きのめされながら、痛みにうずくまりながら、それでも彼らは何とも愉しそうなのだ。
目の当たりにした店長の『神速』と同じくらい、その姿は師範にとって驚きであり、衝撃であった。


師範は知らなかったのだ

強いものと戦うことの『愉しさ』を

それをあっさりと弟子達にもたらした店長が、
そして、その輪に混ざりたいとウズウズしている自分が、

何よりも驚きであった

「し…新郷…? 本当に大丈夫…」
「店長さん!!」
「は、はい…!!?」

いきなり掛けられた声に、店長は心底飛び上がった!
寝ていた師範が、上半身を起こしてこちらを見ている。

「厳しい状態の維持をお願いします!! 彼らに心配はご無用!!! 皆、そんなヤワな鍛え方はしておりません!!!」

師範の言葉に、全員が一斉にパーッと笑顔になった。
全員が僅かに起き上がり、ゼハゼハ言いながら首を縦に振っている。

「新郷君!」
「は、はい…!!!」

師範がチョイチョイと指で新郷を呼び寄せる。
何かを耳打ちすると、新郷を送りだす。

再び中央で、新郷と店長が相対する。

全員が固唾を呑む中、師範が逞しい声で号令を発した!

「はじめ!!!」

一瞬戸惑った店長も、すぐにバトルモードに入り、新郷の目の前から姿を消す!
次の瞬間にはもう新郷の背後に回り、彼のがら空きの右腹部にブローを叩き込もうとしている!!

が!!!

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その初撃を、新郷は見事に防いでみせた!!!

唖然とする店長、だがそれ以上に驚いている人物がいた。
そう、防御に初めて成功した、新郷中佐自身である。

その場にいる全員の視線が、師範に集中する。
師範は布団に胡坐(あぐら)をかき、全員に僅かな微笑を見せた。

「皆、何故我々には五感が備わっていると思っているのだ?」

全員が固唾を飲みながら、次の言葉を待った。
攻撃を初めて防がれた店長も、親友の攻撃を初めて防いだ新郷も、真っ直ぐに彼に視線を向ける。

「皆、『眼』に頼り過ぎなのだ。 だから視界から消える店長さんの神速に怯み、惑い、動作の尽(ことごと)くが一つ遅れる。 それ故に彼を捉えられない。 良いかね? 彼の動きは私でも追い切れない。 目で追うのはおそらく事実上不可能だ」

その一言に、店長以外の全員が唾を飲み込んだ。

「だが、それで手が無くなるわけではない。 先も言ったが、我々には『五感』があるのだ。 感覚器官が5つもあるのは何故だと思う? より高位の次元で相手を察知するためだ。 その一つが利かぬ相手に、どう対処すれば良い? 答えは容易い、他の器官を駆使すれば良い。 視覚を捨て、耳で聞き、鼻で嗅ぎ、空気を感じるのだ。 どんなに経過が見えずとも、攻撃の瞬間には必ずそこにいるのだ。 経過に惑わされず、その一瞬に反応できさえすれば良い」

そう一気に話すと、師範はニッと口元を歪めて笑ってみせた。
その表情に、店長以外の全員が驚いた。

「…じゃあ新郷には…?」
「防御の直前まで目を瞑るように指示したのです。 彼は私が望む技術をこの中で最も高度に習得しておりますからな、何とかできるのではないかと踏んだのです」

「…凄い! 凄いや…!!!」
「まぁ、新郷君は根が真面目ですし、この中ではトップの資質を…」
「幸志朗さんですよ!! 新郷も凄いけど…幸志朗さん…本当に凄い!!!」
「…は…?」

新郷含めた自警団員全員がバッと仁王立ちし、腰から綺麗にお辞儀をした。

「御指導、ありがとうございます!!!!!」

その光景に、師範は本当に驚いた。
師範代として、初めて誰かに『ものを教える』ことが出来た気がして感動している自分に、

師範は本当に、驚いた


その夜は、全員で道場の大風呂に入った。
師範の体調も良くなったし、風呂で疲れを抜くのもいいだろうと店長も了承した。

師範のアドバイスで、僅かずつではあるが店長の動きに反応できるようになった自警団員5人はすっかりテンションが上がり、風呂場でマッパのまま肩を組んで自警団の歌を合唱した。

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店長は己のビッグバン現象にオロオロするばかりであったが、珍しく師範が楽しそうにしているさまに、何だか自分も嬉しくなってしまうのであった。


-翌日

「…え? 本当に完治してるんですか…?」

師範に言われて再度呼んだお医者さんは、ニッコリ笑って頷いた。
「いや、武道家というのはやはり回復力が違うのでしょうかな。 検査結果は全て良好、すぐに無理をされるのは賛成できかねますが、今まで通りの生活には戻られても問題ないと思いますよ?」

その言葉に店長はワーっと大喜びし、
「じゃ、今夜は皆で幸志朗さんの全快祝いをしましょう!!」

そう言って部屋を飛び出していった。 どうやら廊下の電話をかけまくるようである。
どうせなら二人っきりでお祝いしてもらいたい気もしたのだが、彼の喜びようが何だか嬉しくて、まぁそれもいいかと思ってしまう。

「…優しい表情をされるようになられましたね」

お医者さんの不意の一言に、師範は少し驚いた。

「…? 何がです?」
「先生もまだお母様がご存命の時は、そうして優しい表情をされておられましたので、何だか懐かしくて…」

師範が要領を得ないというような不思議な表情をしていると、そのお医者さんはニッコリと微笑んだ。

「覚えてらっしゃいませんか? 私は先代様、先生のお父様の頃からご贔屓にさせて頂いていたのです」
「…父の…?」
「はい。 先代様も先生のお母様がまだいらっしゃった頃にはたまにそうして微笑んでらっしゃいましたね。 奥方が、お母様が亡くられてからは随分とお人柄も変わってしまわれて、先生もおつらい思いを沢山なさったでしょうに…」

そう言いながら、彼は店長がいる廊下に目をやった。

「…素敵な御友人が出来たのですね…。 本当に良かった…」


師範は、言葉がなかった



-幸志朗さん-

その人は、母は私をそう呼んでくれた
忘却の彼方へと追いやってしまった、幼き日々…

彼女はいつも、優しい笑顔でそこにいた


「あら、幸志朗さん、とっても上手に出来ましたね」

私が縫った簡単な裁縫を、母はそう言って褒めてくれた。
優しい表情で私に微笑み、暖かな手で私を撫でてくれた。

「幸志朗さんは本当に手先が器用ね。 これなら、ぬいぐるみなんかも作れるようになりますよ?」

母がそう優しく言うと、部屋に入ってきた父と祖父がフンと鼻を鳴らした。

「全く、そのようなくだらぬことが男の人生に何の役に立つ?」
「早うそんなものを置いて道場に来ぬか。 手先ばかり器用になりおって」

父と祖父の言葉に震える私に、母は変わらぬ笑みを向けてくれた。
そして同じ微笑のまま、彼女は二人に向き合った。

「あら貴方、今なんと仰いました? 『くだらぬこと』? この家で私(わたくし)が担っておりますお仕事を、くだらぬと…?」
「い、いや…ち、違うのだ。 男がそのような、と…」
「私、お義父様はご理解がある方と思っておりましたのに、本当に残念で仕方がありませんわ…。 私の仕事を『そんなもの』と仰られるだなんて…」
「違うのだ、春実(はるみ)さん…!! 男が手先ばかり器用になっても仕方が無いと…!!」
「貴方、お義父様、武道において手先が器用であることがそんなにもマイナスとなることですか? 何であれ、出来ぬより出来る方が良いことなど、幼子にもわかることではありませんか? それを頭ごなしに否定されて、私、ここにいて良いものか考えさせられてしまいますわ」
「!!! す、すまぬ春実! そういう意味ではなかったのだ!! 前言は撤回させて頂く!!!」
「うむ!! 春実さん、僅かな心の行き違いがあったことを詫びさせて頂こう…!!!」
「あら、私てっきりお二人に見下されてしまっているか、はたまたお二人は男が女がと偏見の目を持って詮なきことを囁かれる頭の硬い御仁であるのかと勘違いしてしまいましたわ。 ごめんなさいね」

母は二人にニッコリ微笑むと、パンと嬉しそうに手を打った。
「そうだ! じゃ、今夜のメニューはお二人が大好きな団子鍋にしましょう! それで仲直り致しましょう?」

そう、彼女が言うのと一緒に、父も、祖父も、汗をかいて焦りながらも、頬を染めつつウンウンと頷いてみせた。


私は、彼女が大好きだった。

優しい母が、強い母が、
私は   大好きだった

普段は怖くて仕方がない父も、祖父も、
彼女の前ではかたなしだった。

あの二人を言い負かす母が、私は大好きだった。

だが、今なら少し違うと思える。

私は母が好きだった。
だが、母にだけは頭があがらない父も、祖父も、同じくらい好きだったのではないだろうか?

母が亡くなってから、二人は様子が変わってしまった。
いや、彼女がいない昔に戻ったのだろうか?

異常と言えるほど容赦が無くなり、修練では本当に何度も絶命しかけた。

生きるためには、強くなるしか無かった。
強くならなければ、殺されると本気で思った。

だからこそ、ただ強さだけを求めた。

父を、祖父を、凌駕する力を求めた。

そして私に凌駕された二人は、全ての覇気を失い、短い余生を伏して送った。


今なら、わかる気がする


二人は、ただただ寂しかったのだ

ただただ、悲しかったのだ


彼女がいなくなった家が、生活が、
つらくて、苦しくて、悲しくて仕方がなかったのだ

我を忘れて、毎日血反吐が出るほどの修練の日々を送らねばならぬほど、
彼らは   弱かったのだ


二人は、今は幸せに微笑んでいるだろうか…?
向こうで、母に再び会えて、
頭を掻いて困りながら、それでも幸せそうに笑っているだろうか…?


そうだと嬉しいと、思える自分が嬉しかった

三人を想いながら、涙がにじむ自分が


嬉しかった



「…何故駄目狼までもが席に座っておるのだ…?」
「…知るかよ…。 キバトラが来いっつうから来てやったんだろうが」

いつもの自警団メンバーはわかるが、店長さんはこの席に源司さん、茶道寺君、駄目狼までも呼んでいたのだ。

「またまた、ナギさんって本当にへそ曲がりですよねぇ。 食事の買い物とか、殆どナギさんがしてくれてたんですよ? お昼のカレーうどんの時も、ナギさんが食材を持ってきてくれたんですから」
「バ…!! お、お前が買って来いっつうから買ってきてやってたんだろうが…!! 別にオッサンがどうとか、そんなんじゃ…!!」
「愁哉君は追加の着替えを持ってきてくれましたし、源司さんもお医者様を紹介してくださったりして」
「スルーかよ!!!?」
「俺は丁度仕事終わりだったっすからね」
「私も、医療行為には携われませんので、当然のことをしただけです」

皆そうして、照れくさそうに、でもどこか愉しそうに微笑んだ(プンスコ駄目狼以外)。

新郷君も、他の4人も、私の回復を祝ってくれている。

「はーい! 特製鶏団子鍋の完成で~す!! 皆、いっぱい食べて下さいね~!!!」

全員が歓声を上げ、思い思いに鍋をすくい、歓談しながら団子や白菜を口に運ぶ。

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私が欲しかったものが   そこにあった

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温かい食事   優しい食卓

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幸せな笑顔

そして、その中心にいる

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大好きな人


そう、私はずっと

「家族」が欲しかったのだ

「家庭」が   欲しかったのだ


私がどうして店長さんを好きになったのか

今ならはっきりと分かる


私はこの方に、

亡き母を重ねていたのだ


強く、優しい、
大好きだった彼女を


私はこの方と

「家族」になりたかったのだ


そう、だからこそ、
負ける訳にはいかない
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大切な家族を侮辱され、
黙っている訳にはいかない!

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いざ、尋常に

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勝負!!!!!


つづく



はい、という訳で師範編第二話連撃でした~。

いや、今回のお話は挿絵に時間かかってしまいました…(汗)
一枚に入るキャラが多いんだよ!!! もう…!!!
と、ちょっと自分に切れてみたり(笑)
皆でお食事シーンは魂消え入りそうでしたw
茶道寺さんがナギさんに団子鍋よそってあげたんですけど、なんだかわかりにくい描写になってしまいましたねぇ…。

さて、次回はようやく試合に決着が付きます。 どうぞお楽しみに~!!

あ、お気付きかとは思いますが、自警団メンバーの合唱シーンは手前の二人、消せます(笑)
レスとか色々落ち着きましたら、裏にアップしようと思っております~!!

っと、ここでちょいメモ。
師範が「三国一の果報者」と言ってますが、あれは日本・イギリス・ロシアの現在存在している三国のことを表しており、イコール「世界一の幸せ者」という意味になってます。
こういうちょっとしたことわざの変化なんかもこの世界にはあったりしますw

それでは、また来月~

のんけも | 17:59:10 | Trackback(0) | Comments(34)
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